研究課題
本研究は、現時点では原因や分子病態が不明かつ致死的な疾患である大動脈解離について、細胞老化の観点から病態を解明することを目的としている。予備的検討から大動脈解離組織では細胞老化関連応答が起こること示されていたため、大動脈解離病態における時間的、空間的な老化細胞の出現を検討した。老化細胞マーカーとして老化関連βガラクトシダーゼ(SAβgal)を用いた。コラーゲン架橋酵素阻害薬βアミノプロピオニトリル(BAPN)とアンジオテンシンIIを浸透圧ポンプにより同時投与して惹起されるマウス大動脈解離モデルを用いた。このモデルでは、解離刺激後3日目以降に解離の発症が始まり、7日目には半数、14日目にはほぼ全てのマウスで大動脈解離を発症する。解離刺激後、発症前の1日目にはSAβgal陽性の老化細胞が大動脈壁の内膜、中膜、外膜に出現していた。その後も老化細胞は14日間の観察期間を通じて観察された。老化細胞が解離病態において果たす役割を明らかにするために、老化細胞除去薬ABT-263をマウスに経口投与した。ABT-263の投与量と細胞老化マーカーInk4aの発現を検討し、最適な投与量を決定した。ABT-263の投与により解離の発症および重症度が抑制された。網羅的遺伝子発現解析から、解離刺激が炎症応答、T細胞およびB細胞の分化・活性化関連応答を惹起し、ABT-263はこれらの応答を抑制することが示された。また、解離刺激は脂質代謝関連遺伝子発現を抑制し、ABT-263がその抑制を開示することが示された。
3: やや遅れている
炎症関連遺伝子応答遺伝子の発現を解析する試薬の納入が遅延したため、老化細胞と炎症応答の関連の解明が遅延した。納入遅延にはCOVID-19による物流停滞が影響したと思われた。
炎症関連遺伝子の発現を網羅的かつ定量的に見る解析手法を用いることで研究の加速を図る。COVID-19の今後の推移と影響は予断を許さないが、適切な研究戦略や解析方法を採用することで研究の完遂を目指す。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 7件、 招待講演 1件)
Journal of Cardiology
巻: 77 ページ: 471~474
10.1016/j.jjcc.2020.10.010
Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology
巻: 40 ページ: 189~205
10.1161/ATVBAHA.119.313336
Annals of Vascular Diseases
巻: 13 ページ: 151~157
10.3400/avd.oa.20-00009
PLOS ONE
巻: 15 ページ: e0229888
10.1371/journal.pone.0229888
JACC: Basic to Translational Science
巻: 5 ページ: 126~144
10.1016/j.jacbts.2019.10.010
International Journal of Molecular Sciences
巻: 21 ページ: 3341~3341
10.3390/ijms21093341