研究課題
本研究は、特発性肺線維症 (IPF: idiopathic pulmonary fibrosis) を中心とした肺線維化の発症と増悪に導くダメージ関連分子パターン (DAMPs)・RAGE・線維化パスウェイの中心的分子を同定し、肺の異常線維化に関連した疾患・病態に対する新規治療法の開発を目的としている。令和2年度はIPF患者の肺組織におけるS100A8/A9の発現を免疫染色およびウエスタンブロットで評価した。正常肺組織と比較して、IPFの肺組織ではS100A8/A9の発現が上昇していた。またS100A8/A9はIPF患者の血漿中でも上昇が認められた。これらの知見と、令和元年度に得られている知見(ブレオマイシンによる肺線維症モデルマウスの作製プロトコールを確立し、そのモデルを用いた実験で抗S100A8/A9中和抗体により有意な肺線維化抑制効果が得られ、生存率の改善を認めたこと、また線維芽細胞を用いたin vitroでの実験により、S100A8/9蛋白の刺激によって線維芽細胞の増殖能は上昇し、下流の転写因子であるNF-κBの活性の上昇を認め、さらに 抗S100A8/A9中和抗体投与により、活性型線維芽細胞のマーカーであるαSMAの発現低下、コラーゲン産生能の低下、NF-κBの活性の抑制効果を認めたこと)とを併せて、論文にまとめ、Journal of Molecular Medicine誌に投稿し、掲載された。
2: おおむね順調に進展している
IPF患者の肺組織におけるS100A8/A9の発現が正常肺組織と比較して上昇していることとS100A8/A9はIPF患者の血漿中でも上昇していることを示した。さらにS100A8/A9蛋白はRAGEを介してマウスとヒト線維芽細胞の増殖活性を上昇させることを示した。また、前年度の知見と併せて研究成果を論文化しJournal of Molecular Medicine誌に投稿し、掲載された。したがって研究は概ね順調に進んでいると考えられる。
IPF患者等を対象に、ELISA法を用いて、血清DAMPs種の測定を行い、臨床における病勢診断指標(肺機能やCT所見、KL-6値)との関連・優位性を検討し、IPF急性増悪の早期診断など病勢予測診断法の開発につなげる。また抗S100中和抗体治療による、線維芽細胞における遺伝子発現・蛋白リン酸化の変化を網羅的に解析することにより、RAGE・線維化パスウェイの詳細な分子経路を解明する。さらに、肺の線維化に特化したS100A8/9以外のRAGE結合性DAMPsを網羅的に同定し、新たな治療標的を検索する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
J Mol Med (Berl)
巻: 99 ページ: 131-145
10.1007/s00109-020-02001-x.