研究課題
術後痛動物モデルとして足底切開や開腹・開胸モデルが開発されたが、これらは健常組織への外科的切開モデルであり、いわば外傷痛モデルである。手術とは、腫瘍、炎症、虚血などで惹起された炎症反応や血管・神経が増生した病変部位に、外科的侵襲を加える操作である。したがって、新生した血管・神経の損傷により生じる術後痛は、健常組織の損傷による外傷痛とは機序が異なり、術後遷延痛の発生率にも影響を与える 。そこで、より有益な新規術後鎮痛法の開発のためには、病変部位への外科侵襲による、臨床をより反映した新たな術後痛モデルを用いたトランスレーショナルリサーチが不可欠である。本研究では炎症性病変を導入後、炎症性疼痛が消退した病変部位への外科的切開を加えた(I) 四肢手術後痛モデルと(II) 開腹手術後痛モデルを新たに開発し、生理学的、免疫組織化学的、薬理学的機序解明をもとに、新規術後鎮痛薬・法の開発を行う。2019年度は(I)の四肢手術後痛モデル確立のために、炎症物質CFAをラット足底に注入後、浮腫と痛覚過敏が出現し、2週間程度の持続後、完全に消失した28日目に足底切開を行った。通常、自発痛は3-4日で消失するが、2週間程度持続し、熱性および機械的痛覚過敏は4週間以上持続した。皮膚切開による浮腫も1週間以上持続し、組織学的な炎症所見も長時間持続した。皮膚切開後に投与したロイソプロフェンの効果は弱く、切開後、早期しか効果がなかった。組織学的検討では、CFA注入後、浸潤細胞は28日で消失しており、炎症細胞の浸潤による炎症は消失していることが考えられた。しかし途中経緯で、浸潤している炎症細胞のタイプは不明であるため、今後の検討が必要である。他方、皮膚切開後、出血と浮腫が強く、この持続時間も長かった。したがって、神経新生や血管新生が起こっている可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
2つのモデル作成のうち、四肢手術後痛については、行動生理学的検討と一部、薬理学的検討が終了しており、研究の過半は達成できた。今後、電気生理学的検討と、可能であれば、開腹術後の慢性術後痛モデルの作成へと進めたい。
四肢手術後痛について、モデル作成後、疼痛が持続している時期において、脊髄後角ニューロンからの単一活動を電気生理学的に記録し、行動生理学と一致した結果を得る研究を行う。また疼痛行動をもとに、薬理学的な痛みの特徴を検討しており、これらが電気生理学的にも同様の結果が得られるかどうか、検討を加えたい。四肢手術後痛に関する検討が終了すれば、より臨床的には重要な、開腹手術後の慢性術後痛モデルの作成へと進めたい。腹膜炎を導入後、炎症及び疼痛行動が消失した時点で、開腹切開術を行い、その後の疼痛の持続と疼痛の特徴を、行動生理学的、薬理学的、電気生理学的、組織化学的に検討する。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
J Pain Research.
巻: 12 ページ: 363 375
10.2147/JPR.S179110.
J Anesth.
巻: 33 ページ: 221 229
10.1007/s00540-018-2601-x
Am J Pathol.
巻: 189 ページ: 2487 2502
巻: 12 ページ: 3423 3436
JA Clin Rep.
巻: 5 ページ: 59
10.1186/s40981-019-0277-3.
巻: 33 ページ: 349
10.1007/s00540-019-02617-5