研究課題/領域番号 |
19H03750
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
川真田 樹人 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (90315523)
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研究分担者 |
田中 聡 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (60293510)
石田 高志 信州大学, 学術研究院医学系(医学部附属病院), 講師 (60531952)
石田 公美子 (松尾公美子) 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (80467191)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 術後痛モデル / メカニズム / 神経新生 / 血管新生 / 病巣 |
研究実績の概要 |
術後痛動物モデルである足底切開(皮膚、皮下、筋肉)モデルは外傷痛に過ぎず、病巣部に手術操作が加えられる、真の術後痛モデルの作成が急務である。病巣部では、腫瘍、虚血、炎症などにより新生血管や新生神経が増加し、この部位への手術操作による神経傷害性疼痛、虚血性疼痛、炎症性疼痛などが複合的に関与する。本研究では、(1)複合的な疼痛状態である新たな術後痛モデルを確立し、(2)術後痛における神経障害や新生血管障害による痛みのメカニズムを明らかにし、新たな鎮痛法の開発を目指す。セボフルラン(3-4%)麻酔下に、雄性SDラット(6-8週齢)の右後肢足底皮下の踵から2cmに、Complete Freund’s Adjuvant(CFA) 50μLを投与した。対照群は0.9%生理食塩水50μLを投与した。すべての疼痛行動閾値が改善した28日目に、足底切開モデル(Brennannら Pain 1996)を作製した。セボフルラン(3-4%)麻酔下に右後肢足底の踵から0.5cmの部位を起点として足先に向かって皮膚・筋膜を11番メスで1cm切開した後、足底筋(短肢屈筋)の一部を切開し,切開部位を6-0ナイロンで2針縫合した。CFA-Incision群は、CFA投与28日後、足底切開7-35日後でNS-Incisionと比較して有意に足底の厚み比が増加していた。足底切開後の自発痛は、Baselineと比較して、CFA-Incision群で、2時間後から7日後まで、NS-Incision群で2時間後から3日後まで続いた。CFA投与後の逃避閾値は、CFA-Incision群、CFA群において、NS-Incision群と比較して、2時間後から、21日後まで有意に低下し、28日後に基準値に回復した。CFA-Incision群は、足底切開2日、7日後でNS-Incision群と比較して細胞数が有意に増加していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
より臨床像に近い術後痛モデルの開発において、皮膚切開モデルについては順調に進んでおり、炎症による病巣(CSF投与による組織変化)では、神経新生や血管新生が起こり、炎症細胞の浸潤数も増加することが示されている。これらの結果から、腹膜炎モデルにおいても、同様の変化が起きていることが推定されることから、今後、腹膜炎モデルにおいても研究を進め、同様の結果を得ることが十分可能と考えられる。以上より、概ね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
CFAにより病巣部においては神経新生、血管新生が増加し、この病巣部に外科的切開が加わると、疼痛行動が増強することが示された。また外科的切開により浸潤する細胞数が、病巣部においては増加することが示された。今後は、この浸潤細胞(炎症細胞)の種類、血管新生や神経新生の定量と、どの種類の知覚神経の新生が多くを占めるのか等、検討を加えていく。さらに、電気生理学的にもこの痛覚過敏が脊髄神経(知覚2次ニューロン)でも見られることを確認する。最終的には、通常のNSAIDやオピオイドの効果についても、病巣部(CSF投与後)外科切開ラットと、生食投与後外科切開ラットで比較検討し、実際の手術病巣に加えられた手術侵襲による、より臨床像に近い術後痛のメカニズムの解明を行いたい。
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