虚血耐性は、軽微な虚血の前負荷 (preconditioning)により、引き続く致死的負荷に対して抵抗性を獲得する現象であり、その強力な神経細胞保護効果は、脳梗塞治療開発の観点から注目を集めている。一方、ATPは生体のエネルギー通貨のみならず、神経情報伝達物質としても機能するが、脳虚血後の神経細胞グリア間の情報伝達においてATPとその受容体(P2受容体)が重要な役割を果たすことが近年明らかになっている。我々はpreconditioningがアストロサイト上のATPイオンチャネル内蔵型P2X7受容体の発現を亢進し、これによりHIF-1αを介して神経細胞に虚血耐性を誘導することを初めて明らかにした。しかしながら、P2受容体は、その他多数のサブタイプを有し、神経細胞やミクログリアにも広く発現しているため、ATPとP2受容体を介する情報伝達がいかに虚血耐性現象を制御するか?につ いては十分に解明されていない。 虚血耐性モデルは雄性C57Bl/6マウスを用い、先端をコーティングした6-0ナイロン糸を挿入し作成した。本モデルでは、15分間虚血によるpreconditioningにより、60分間の致死的虚血への耐性を獲得することが可能である。 昨年度は、PLXを投与しミクログリアをノックダウンすると、虚血耐性現象は消失し、また、PLX投与群では、preconditioning 7日後での活性化アストロサイト上のP2X7受容体の発現が、control投与群に比べて減少することを明らかにした。 本年度は、PLX投与群では神経細胞傷害因子であるC3dの発現が亢進し、かつ神経細胞保護因子であるBDNFおよびqSTAT3の発現低下を明らかにした。さらに、PLX群、control群の遺伝子解析を行い、NOSに関連する遺伝子発現が変化している点も明らかにした。
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