研究課題
亜鉛は体内で合成することが不可能な必須ミネラルであり、その欠乏は皮膚症状や免疫機能の異常を引き起こすことから亜鉛シグナルは様々な細胞機能に関わっていることが知られている。しかし、脊髄損傷等の中枢神経外傷の病態に与える影響は全く解明されていなかった。本研究に於いては、レーザーマイクロダイセクションならびにギガシークエンサーを用いたマクロファージやミクログリアなどの細胞を選択的に回収し、網羅的な発現遺伝子解析により、亜鉛シグナルが脊髄損傷後の病態に与える影響を包括的に解明するとともに、補充療法など含めた亜鉛シグナルの制御が新規脊髄損傷治療法の確立につながるかを検討することである。昨年までの成果により、損傷脊髄部に集積したマクロファージの亜鉛濃度が血中単球と比して有意に上昇していること、血清亜鉛濃度の低下が脊髄損傷後の神経機能の予後予測マーカーとして有用であることを報告した。今年度の成果として、亜鉛欠乏状態では神経機能予後が著しく悪化すること、そのメカニズムとして損傷脊髄部に浸潤する炎症反応細胞の量とともに細胞あたりの炎症生サイトカインの発現量が増加していることを確認した。また、血清亜鉛濃度の推移変化も予後予測マーカーとなりうることなどを見出した。一方、損傷12時間後の末梢血単球の亜鉛濃度は二峰性に区別され、それらのサイトカインやケモカインの発現は有意に異なるため、損傷部へのマクロファージの浸潤にも亜鉛濃度が関与している可能性を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
海外における脊髄損傷患者の臨床治験でも亜鉛濃度と神経機能予後の相関についての追試がなされ、我々の提唱した知見が支持されている。低亜鉛食給餌によるマウス低亜鉛モデル並びに、亜鉛投与による補給モデルがそれぞれ安定的に作成できるようになり、亜鉛が脊髄損傷の病態に与える影響が明らかになりつつある。
最終年度は亜鉛の補充効果が神経予後に影響を与えるかを中心に検討する。まず、損傷後の血清中の亜鉛濃度の推移を明らかにし、どのタイムポイントでの補充が脊髄損傷の病態に影響するのかを検討する。さらに人間では元々の血清亜鉛濃度にばらつきが大きいため、亜鉛濃度の域値も検討する必要があると考えている。
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