亜鉛は体内で合成することが不可能な必須ミネラルであり、その欠乏は皮膚症状や免疫機能の異常を引き起こすことから亜鉛シグナルは様々な細胞機能に関わっていることが知られている。しかし、脊髄損傷等の中枢神経外傷の病態に与える影響は全く解明されていなかった。本研究に於いては、レーザーマイクロダイセクションならびにギガシークエンサーを用いたマクロファージやミクログリアなどの細胞を選択的に回収し、網羅的な発現遺伝子解析により、亜鉛シグナルが脊髄損傷後の病態に与える影響を包括的に解明することを目的とした。その結果、損傷脊髄部に集積したマクロファージの亜鉛濃度が血中単球と比して有意に上昇していること、血清亜鉛濃度の低下が脊髄損傷後の神経機能の予後予測マーカーとして有用であること、亜鉛欠乏状態では神経機能予後が著しく悪化すること、そのメカニズムとして損傷脊髄部に浸潤する炎症反応細胞の量とともに細胞あたりの炎症生サイトカインの発現量が増加していることなどを明らかにした。低亜鉛を補正することで脊髄損傷後の病態悪化を予防できることをマウス脊髄損傷モデルを用いて明らかにしたが、亜鉛投与の有用性については亜鉛中毒等の副作用(粘膜刺激症状による胃腸障害)が懸念されるため、さらなる慎重な基礎研究が必要と考えられた。
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