研究課題
神経線維腫症は、多発性神経線維腫に加え悪性腫瘍等を伴う1型(NF1)、及び類似症状に加え中枢神経系腫瘍を高頻度に伴う2型(NF2)からなる治療困難な遺伝性疾患である。本研究では、両疾患の関わる神経系分化異常と腫瘍発生機序の解明、および治療標的の開発を目的としている。本年度は、様々な細胞において樹立を進めている各種NF病態モデル細胞を用いて、特異的な神経系分化異常および腫瘍化に関わる細胞内分子群の異常ネットワークを独自のトランスクリプトミクス・プロテオミクスを介して詳細に解析する過程で、従来の解析方法論の大きな改良を行い、これらを最適化して応用することによって、より詳細な深度の高い定量性のある分子解析データを再取得した。具体的には、細胞の可溶化法と前処理法および質量分析によるデータ取得法を本課題に最適化し、以前よりも格段感度が高く、同定および定量精度の高いデータの取得に成功した。これによって、細胞内にて異常化している特異的病態分子シグナルネットワークの抽出がより詳細かつ正確に可能となった。膨大な解析データから新規統計解析法を導入したデータマイニング方法論の改良も行い、最も異常なクラスターを生じる因子群をしぼりこむことに成功した。複数のターゲットとなりうる因子群の中で、NF1においては、特にアポトーシス阻害、およびタンパク質翻訳伸長因子群が特異的であり、NF2においては、上流において特異的なグライキャンを有する膜タンパク質の関与とそれを介した下流因子の関与が示唆された。
3: やや遅れている
本年度は、昨年度に引き続き、独自に樹立した各種NF病態モデルを用いて、特異的な神経系分化異常および腫瘍化に関わる細胞内分子群の異常ネットワークを独自のトランスクリプトーム・プロテオーム統合解析システムにて解析を行うこと、また、新たなインタラクトーム解析技術を最適化し、NF1/2遺伝子産物に結合して機能するコンプレックスとそれを介したネットワークを解析し、得られた情報をユニークな統合マイニング法にて融合抽出・絞り込みを行うことを計画していた。解析法の最適化を行う過程で、細胞可溶化法、および質量分析に供与する前処理法を再検討することによって、より深度の高い解析データが得られることが判明し、新たな方法論で再度、すべてのサンブルの調整を再試行した。さらに、質量分析法も改良し、統計計算などの数値データの再計算を行った。また、予測できない質量分析装置の故障や、コロナ禍における試薬や消耗品の調達遅延などで、解析がやや遅延したが、改良後、順調にデータを取得することができている。
今回、全てのサンプルの前処理法と質量分析法を改良したことによって、以前より格段に感度と精度の高い分子解析データを得ることができるようになった。今後、進行中の課題も含めて以下の項目についてさらに研究を推進させる。A) NF遺伝子KD細胞, 患者由来NF細胞,iPS細胞の樹立とその性状解析 (1) iPS細胞作製:NF患者の繊維芽細胞および末梢血幹細胞を用いて幹細胞誘導、神経系細胞への分化誘導の最適化、性状解析を含めた方法論の確立と樹立をひきつづき進める。(2) NF1遺伝子KOマウスからの細胞の単離は数種類成功し継続している. (3)患者腫瘍組織からの樹立に成功しているので引き続き細胞性状解析を行うB) 融合オミクスによるNF病態関係機能変化に連動する分子解析、ネットワーク抽出と標的分子群検索・同定 (1)プロテオーム定量解析:高感度質量分析(nanoEasy OrbiTrop-Fusion)によるDIA解析の確立 (2)トランスクリプトーム解析 (3)メタボローム解析 (4)新規インタラクトーム解析法の検討と応用C) データ統合マイニングによる特異的シグナル分子群の選択とシグナルネットワークの抽出、特異的シグナル分子群の関わるシグナルネットワークの同定と候補因子群の検証実験および、特異的因子群に対する阻害剤の臨床応用の可能性に関する検討。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 5件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件) 備考 (3件) 産業財産権 (1件)
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