研究課題
本研究では、患者病変部より独自に樹立した病態再現性の高い、様々なヒト由来脳腫瘍細胞株(patient-derived cell, PDC)を活用して、血清中に分泌される脳腫瘍関連タンパク質を同定するための新技術の確立と、早期診断、腫瘍型の分類、治療効果予測などに有用な脳腫瘍ための血清バイオマーカーの開発を目指している。そのため、令和元年度は、以下の研究を行った。1.細胞のアイデンティティの決定に関与する遺伝子の発現制御にはたらくゲノム領域であるスーパーエンハンサー(SE)を探索するために、様々な遺伝的背景を有する4種類のPDCについて、ヒストンH3の27番目のリジン残基のアセチル化修飾(H3K27ac)抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)と、大量並列シーケンステクノロジーを併用したChIP-seq解析を実施した。さらに、これらSEにより発現制御され、各PDCの表現型を決定する遺伝子座、およびそれらがコードする遺伝子群を選別し、薬剤抵抗性PDCに共通する遺伝子群を抽出した。2.質量分析装置を用いた細胞内プロテオーム定量解析を実施し、各PDCにおいて発現変動するタンパク質群を探索した。その結果、薬剤感受性PDC群に対して、薬剤抵抗性PDC群において2倍以上発現変動するタンパク質(p<0.001)を抽出した。この結果に基づき、パスウェイ解析ソフトウェアIPAを用いて関連する下流の生化学的機能を予測した。その結果、薬剤抵抗性PDCでは細胞の運動性が促進される一方で、細胞死が抑制される傾向にあることがわかった。3.上記2種類の解析結果から、薬剤抵抗性PDCに特徴的なタンパク質を16種類まで絞り込んだ。この中には癌の悪性化に関与することがわかっている転写因子やリン酸化酵素も含まれていた。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度は、腫瘍型の分類や治療効果予測などに有用な脳腫瘍ためのバイオマーカーの開発のために、各PDCの表現型を決定するスパーエンハンサーの同定と、それが発現制御する遺伝子群の抽出、さらには細胞内プロテオーム解析を実施した。当初の想定に反し、腫瘍の表現型を決定する遺伝子を効率良く絞り込むためには、より複数の試料の解析が必要だったことや、Chip-seq解析の実施を担当する協力者の事情(装置の不具合)と試料の質の問題により、Chip-seq解析期間が長期化した。しかし、複数PDCから今後の研究進捗にかかわる重要な基礎データを収集することができ、表現型に関連する特徴的なタンパク質の効率的な絞り込みが可能となった。また血清を用いた新たなバイオマーカー候補タンパク質探索法の開発に取り組む準備もできた。
令和元年度は、Chip-seq解析や細胞内プロテオーム定量解析により、本研究の進捗にかかわる重要なデータを収集した。令和二年度は、これらのデータを基礎として、血清バイオマーカー候補タンパク質探索法の開発に取り組む。そのために、複数種類のPDCを同所移植したマウスを準備し、質量分析装置を用いてマウス血清中に含まれるタンパク質を網羅的に測定する。またそのための方法を検討する。さらに取得したデータの中から脳腫瘍のための血清バイオマーカー候補タンパク質を絞り込む。それと同時に、令和元年度に絞り込んだ薬剤抵抗性PDCに特徴的なタンパク質の発現パターンを、マウス体内で増殖した腫瘍組織や患者から摘出した腫瘍組織を用いて調べ、薬剤抵抗性や悪性度との関連性を検討する。これにより、治療効果予測に有用なバイオマーカー候補を探索する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (17件) (うち国際共著 2件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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