研究課題
我々は、思春期特発性側弯症(adolescent idiopathic scoliosis: AIS )の遺伝的背景を明らかにするために全ゲノム関連解析(genome-wide association study:GWAS )を用いてAISの遺伝子研究を行ってきた。近年、遺伝統計学の手法の発展により、GWASデータを用いたPolygenic risk score(PRS)という遺伝情報から疾患を予測する手法が報告された。今回、PRSを用いてAIS疾患感受性PRSの作製を試みた。女性のみを使用し、我々の研究グループが行った3つのGWASコホートを用いて、AIS疾患感受性PRSの導出、検証、確認を行った。さらに、疫学研究でAISの患者は健常人よりbody mass index (BMI)が低値の傾向があるため、BMIの値をこのモデルに説明変数として組み込むと、モデルのAUROCは0.71まで改善した。上記から、AISの環境的因子も同定していくことでより良い予測モデルを作成できる可能性が示唆された。続いて、我々はAISの重症化の予測モデルの作成をした。まず、GWASに使用した3つのコホートのコブ角測定の再現性を級内相関係数で評価し、3コホートともに高い相関示すことを確認した。また、コブ角のGWASとAISのGWAS間に中等度のgenetic correlationを認め、AIS-PRSとコブ角の実測値の間にも有意な相関を認めた。そして、重症化のPRSを作成した。重症化のPRSのAUROCは、0.69であり、妥当な結果を示した。一方で、AIS-PRS同様にBMIをモデルの説明変数に加えても、AUROCの改善は認めなかった。このことから、BMIは主にAISの発症に関与している可能性が示唆された。上記内容を、Journal of Bone and Mineral Research誌に発表した。
2: おおむね順調に進展している
AISのコホートを使用し、GWASでAISの疾患感受性遺伝子座位の探索を行っている。そして、2019年にAISの発症のGWASのデータを報告した。そして、このGWASのデータを基に、polygenic risk score (PRS)という遺伝統計学の手法でゲノム情報からAISの発症の予測モデル(AIS-PRS)を作成した。AIS-PRSで最もリスクが高い群に分類さる個人は、平均なリスク群に比べて約4倍AISを発症する可能性が高いことがわかった。また、AIS-PRCのAUROCは、0.65であった。次に、AISのGWASの結果から、より重要なSNPを選定する方法を発明した。すると、従来の約1/8のSNP数まで削減することができ、AUROCは0.68と同等以上の予測能を示した。AISにとって重要なSNPを抽出することで、さらに予測能を向上させることができることを示した。さらに、疫学研究でAISの患者は健常人よりbody mass index (BMI)が低値の傾向があるため、BMIの値をこのモデルに説明変数として組み込むと、モデルのAUROCは0.71まで改善した。上記から、AISの環境的因子も同定していくことでより良い予測モデルを作成できる可能性が示唆された。続いて、我々はAISの重症化の予測モデルの作成をした。まず、GWASに使用した3つのコホートのコブ角測定の再現性を級内相関係数で評価し、3コホートともに高い相関示すことを確認した。また、コブ角のGWASとAISのGWAS間に中等度のgenetic correlationを認め、AIS-PRSとコブ角の実測値の間にも有意な相関を認めた。そして、重症化のPRSを作成した。重症化のPRSのAUROCは、0.69であり、妥当な結果を示した。一方で、AIS-PRS同様にBMIをモデルの説明変数に加えても、AUROCの改善は認めなかった。このことから、BMIは主にAISの発症に関与している可能性が示唆された。上記内容を、Journal of Bone and Mineral Research誌に発表した。
今回の予測モデルの報告は、後ろ向き研究である。そのため、別の独立した日本人のコホートで、我々の予測モデルの再現性を確認する必要がある。可能であれば前向き研究が望ましいが、後ろ向き研究でも許容できると思われる。これは、遺伝子情報は生まれてから不変であり、解析の時期に影響されないこと、前向き研究に要する時間を考慮すると、妥当であると考える。次に、AISに関連する環境因子の同定である。今回の予測モデルの報告で我々の研究グループは、遺伝子情報に環境因子 (今回はBMI)を組み合わせることで、モデルの予測能を向上させることに成功した。これは、AISとBMIの関係を示した先行の疫学研究の結果を根拠にしている。このように、新たな研究コホートでは遺伝子情報以外に臨床パラメーターも同時に測定し、新たなAISに関係する環境因子の同定を目指す。新たな環境因子を組み合わせることで、さらなる予測能の向上を目指す。三つ目は、予測モデルに使用するSNP数の最適化である。PRSはGWASのデータを基に解析を行なっている。GWASは数々の統計学的処理と検討を要し、数百万のSNPを解析するため、コンピューターへの負荷が高い。既製品のマイクロアレイにあるSNPのみで予測モデルを代替できれば、PRS解析に要する時間とコンピューターへの負荷を軽減でき効果的である。そのために、まず既製品のマイクロアレイのSNPでの予測能と我々の予測モデルと比較検討し妥当な結果であるか否か確認する。最後に、今回の予測モデルの結果は日本人集団における結果である。AISの罹患率に人種差は少ないと言われている。我々のモデルが、他人種におけるコホートでも同等の予測能を示すことができれば、その臨床的意義は大きい。他人種間での再現性の確認は、AISのコホートを有する研究機関と適宜共同研究という形で進めていく必要がると考えている。
すべて 2020
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日本整形外科学会雑誌
巻: 94 ページ: 19-23
巻: 94 ページ: 24-26