研究課題/領域番号 |
19H03788
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
岡田 保典 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授 (00115221)
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研究分担者 |
石島 旨章 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70365576)
金子 晴香 順天堂大学, 医学部, 講師 (50445516)
デベガ スサーナ 順天堂大学, 医学部, 非常勤助教 (30623590)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 変形性関節症 / 骨棘 / ヒアルロン酸 / 画像解析 |
研究実績の概要 |
早期変形性膝関節症(膝OA)の画像解析研究から、滑膜炎合併と骨棘形成が進展に関わっていることが示され、本年度はヒアルロン酸分解酵素HYBID(Hyaluronan binding protein involved in hyaluronan depolymerization)の組織発現や作用解析を中心に検討し、以下の結果を得た。 (1) HYBIDの膝OA滑膜組織での発現と調節因子:HYBIDはOA 滑膜組織で有意に発現亢進しており、関節液中ヒアルロン酸低分子化率と正の相関を示し、滑膜線維芽細胞での発現はIL-6 刺激で亢進した。オートクライン/パラクライン機構によりIL-6刺激で滑膜線維芽細胞がHYBIDを発現し、OA関節液中ヒアルロン酸分解に関わることが示唆された。 (2) HYBID発現におけるヒスタミンの作用機構:皮膚線維芽細胞のヒスタミン刺激でHYBID発現が亢進するとともにヒアルロン酸合成酵素HAS2発現が減少し、ヒアルロン酸量と分子量は減少した。H1ヒスタミン受容体を介した本作用は、異なる細胞内シグナル経路によることが証明された。 (3) HYBID発現と性質を解析する実験方法:HYBIDのヒアルロン酸結合分子としての性質と関節炎や皮膚老化における役割について概説し、研究を推進する実験方法を解説した。 (4) HYBIDの皮膚感染促進作用:HYBID(CEMIP)遺伝子欠損マウス(HYBID-/-)と野生型マウスを用いて黄色ブドウ球菌皮膚感染実験を行い、HYBID-/-マウスで感染が抑制されることを示した。感染により野生型マウス皮膚真皮でHYBID発現が亢進し、ヒアルロン酸は低分子化し、肥満細胞由来ヒスタミンがその誘導に関わることが示された。また、HYBID-/-マウスでの感染抑制には、抗菌作用物質形成と炎症反応亢進による局所防御機構増進が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究実績で述べたように、ヒアルロン酸分解酵素HYBIDに関しては、膝OA滑膜組織での発現と関節液中の高分子ヒアルロン酸分解への関与およびIL-6での発現亢進を実証した。本研究成果は、HYBIDによるヒアルロン酸分解が関節液中ヒアルロン酸のメカニカルストレス緩衝作用の低下と滑膜炎促進を介してOA関節軟骨破壊に関わる経路を明らかにした点で大きな進展と考えられる。また、ヒト型抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)が関節リウマチの治療薬として臨床応用されていることから、トシリズマブと高分子ヒアルロン酸との併用関節内注射などの新規治療法の開発が期待される。さらに、我々は2種類のHYBID阻害剤物質を見出し報告していることから、これら阻害剤の臨床への応用も今後の課題である。一方、骨棘形成に関しては、HYBID遺伝子欠損マウスでの膝OAモデル解析により、HYBIDによるヒアルロン酸分解が骨棘形成促進性に働く可能性を示すことができており、より詳細な検討を加えて論文発表する予定である。また、OA関節の骨棘細胞と関節軟骨細胞のスフェロイド培養法を確立しており、骨棘細胞には幹細胞の比率が高いことを示すデータを得ている。これらのことから、本研究課題の進捗状況は順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、早期膝OAに関して、骨棘に着目しながらその病態を解析し、最終的には早期膝OAの病態解明と進展機構および診断・治療法開発のための基礎研究を推進することを目指している。早期OA病態解析については、OA関節軟骨破壊時のヒアルロン酸分解に中心的役割を果たすHYBIDに関して今後も継続・推進する。このため、HYBID遺伝子欠損マウスと野生型マウスを用いて、内側半月板切除OAモデルと内側半月板不安定化OAモデルを作製し、膝関節での関節軟骨破壊性変化と骨棘形成の違いを組織学的に検討する予定である。これらのOAモデルの関節組織で発現するHYBIDとその類似分子であるTMEM2および種々のサイトカイン・増殖因子の発現を検討するとともに、関節組織抽出ヒアルロン酸の量と分子量の差を測定する。HYBID遺伝子欠損マウスで骨棘形成が縮小するとの予備データを得ているので、その分子機構を調べる。また、骨棘と関節軟骨細胞のスフェロイド(細胞凝集体)培養系において、種々のサイトカインや増殖因子を添加し、骨棘細胞スフェロイドを特異的に縮小させる因子を探索する。一方、画像解析研究により滑膜炎が進展因子として重要であることを認めていることから、OAと正常滑膜組織で発現する主要なアグリカン分解性ADAMTS(a disintegrin and metalloproteinase)分子の同定とサイトカインによる発現調整機構を検討する予定である。
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