研究課題
本年度は、マウスモデルを用いて着床に関わる因子の解析を進めた。黄体ホルモン投与不妊マウスモデル、子宮におけるHypoxia-inducible factor 2α(HIF 2α)遺伝子欠損の着床障害マウスモデル(HIF2αcKOマウス)を用いて解析を行った。野生型マウスに対し排卵直後から着床直前までプロゲスチン(合成プロゲスチンであるレボノルゲストレル、LNGおよび天然型プロゲステロンP4)を投与し胚接着を調べたが、LNG・P4のいずれも高用量の投与で胚接着が阻害された。LNG・P4投与マウスにおいて胚接着に必須因子であるLIFの発現が低下していた。LIFを追加で投与すると胚接着が改善したことから、高用量のプロゲスチン投与がLIF低下を誘導し胚接着を障害することが示された。子宮全体のHIF2αcKOマウスは胚浸潤の異常により完全な不妊となったが、子宮内膜上皮のHIF2αcKOマウスでは正常に分娩すること、子宮内膜間質のHIF2αcKOマウスでは不妊になったことから、子宮内膜間質のHIF2αの胚浸潤における機能が示された。子宮のHIF2αcKOマウスでは通常消失するはずの胚接着部の子宮内膜管腔上皮が消失しないことが判明した。電子顕微鏡による観察で、正常のマウスでは子宮内膜管腔上皮細胞と間質細胞との間隙ができ胚由来の栄養膜細胞浸潤が観察されたのに対し、HIF2αcKOマウスでは細胞間の間隙がみられなかった。胚接着部の子宮内膜間質においては、細胞外マトリックスの分解・再構成に関わるMT2-MMPとLOXが低下していた。間質のHIFシグナルにより、MMPなどを介した上皮消失が誘導される可能性が示唆された。本研究により、黄体ホルモンによる子宮のLIF調節の仕組み、胚浸潤におけるHIFの関与が明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
予定された研究は順調に進行し、その成果として関連する複数の論文が英文学術誌に採用されている。当初の予定通り研究を進める予定である。
子宮の遺伝子改変マウスモデルおよび子宮内膜の細胞培養系を用いて、予定の研究を推進する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 備考 (1件)
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