研究課題/領域番号 |
19H03800
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
加藤 聖子 九州大学, 医学研究院, 教授 (10253527)
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研究分担者 |
片山 佳樹 九州大学, 工学研究院, 教授 (70284528)
森 健 九州大学, 工学研究院, 准教授 (70335785)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 子宮体癌 / がん幹細胞 / SPARC |
研究実績の概要 |
我々は幹細胞の同定法の一つであるSide-population細胞(以下SP細胞)を分離する方法を用いてこのSP細胞が子宮体癌がん幹細胞の特性をもつことを報告してきた。子宮体がんのSP細胞は、自己複製能・長期増殖能の幹細胞の性質の他に、間質への分化、運動能の亢進を示す事を報告し、がん幹細胞の生物学的特性を明らかにした。(Kato K et al. Hum Reprod.2007, Kato K et al. Am J Pathol. 2010, Kato K et al. Mol Can Ther. 2011, Kusunoki S et al. Gynecol.Oncol.2013, Yusuf N et al. Gynecol Oncol. 2014)。子宮体がん幹細胞には上皮間葉移行(EMT)に関与するシグナル経路が重要でありまた、網羅的遺伝子を行い、子宮体癌のSP細胞はSPARCを高発現していること、SPARC過剰発現子宮体癌細胞は、遊走能亢進やfibronectinの発現増加、マウスに間質に富んだ腫瘍を形成することを報告した。臨床検体の解析では予後不良の組織型(漿液性癌、明細胞癌)に発現が亢進していることを明らかにし、がん幹細胞に発現するSPARCが癌の特性に影響を与えることを示した。研究分担者の片山らの研究室は医療分野における診断・治療法の開発を化学的に行っている。研究テーマは、病態生理に基づくドラックデリバリー・ペプチドアレイに基づくコンパニオン診断法の開発・化学修飾に基づく細胞の機能拡張・ナノロボット型DDSの開発など多岐にわたり、多くの研究成果を発表している。 本研究ではこのSPARCの役割・SPARCを標的とした治療法の開発をめざすことを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SPARCの周囲組織細胞に対する影響を解析するため、1)同意を得て採取した正常子宮内膜間質線維芽細胞を用いてSPARC発現癌細胞と共培養し、間質細胞の増殖能・遊走能や、癌関連線維芽細胞(CAF)様の性質に変化するかを解析した。SPARC発現細胞との共培養で、正常線維芽細胞はCAFのマーカーの発現が亢進し、コラーゲンゲル収縮能を増加させた。しかし、SPARCだけの発現抑制ではこの性質は抑制されなかった。そこでSPARC発現細胞で発現が亢進しているfibronectin(FN)に着目しFNコーティングプレートやshFNを用いて検討したところ、FNの存在したでこのSPARCによる正常線維芽細胞への影響がでることが明らかとなった。2)SPARC・MMP3の直接効果を検討するため、間質細胞を無血清培地で培養し、活性化型MMP3と反応させたSPARCとさせないSPARCを添加し1)と同様の解析を行ったが有意な変化は得られスMMP3との関与は見いだせなかった。 よって、SPARC発現は子宮体癌細胞自身にEMTの性質変化を起こすだけではなく、FNとの相互作用により周囲の正常間質細胞をCAF様に変化させることが示された。以上の成果をBMC Cancerへ誌上発表した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに蛍光標識ヒト血清アルブミン(HSA)とSPARCとの結合をin vitro・で確認してきた。本年度はこの結合をin vivoでも確認するとともに癌細胞を用いて、2次元・3次元培養やマウスを用いてアルブミン結合抗がん剤のSPARC発現癌細胞への効果を検討する。 1)SCIDマウスの皮下にIK-SPARC、IK-mock、KLE-shSPARC、KLE-mockを移植し、腫瘍を形成させる。上記で作製された蛍光標識-HSAを尾静脈から注入し、IVIS imaging systemを用いて、その集積の時間・部位との関連を観察する。また、取り込みが確認された部位の臓器や腫瘍を摘出し、HSAの取り込みを蛍光顕微鏡で確認する。 2)IK-SPARC、IK-mock、KLE-shSPARC、KLE-mockの2次元・3次元(sphere assay)を行いアルブミン結合型のパクリタキセル(Nab-Paclitaxel)やドキソルビシン(Aldoxorubicin)を用いて非結合型薬剤と比べてin vitroで増殖能、遊走能、浸潤能、in vivoで腫瘍形成能を抑制するかを比較検討する。 2)増殖抑制効果が確認されたら、それに関与する因子やシグナル経路を解析する。 3) 1)と同様にSCIDマウスの皮下にIK-SPARC、IK-mock、KLE-shSPARC、KLE-mockを移植し、腫瘍を形成させ、上記の抗がん剤を尾静脈または、腫瘍に直接投与し腫瘍の増殖を抑制するかを検討する。有効性が確認されたら、臨床応用へ展開していく。
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