研究課題/領域番号 |
19H03803
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 典生 京都大学, 医学研究科, 准教授 (70378644)
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研究分担者 |
西村 幸司 帝京大学, 医学部, 講師 (20405765)
中川 隆之 京都大学, 医学研究科, 研究員 (50335270)
大西 弘恵 京都大学, 医学研究科, 研究員 (50397634)
岡野 高之 京都大学, 医学研究科, 講師 (60642931)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 単一細胞 / 網羅的遺伝子解析 / 蝸牛上皮 |
研究実績の概要 |
昨年度から続いてE13.5蝸牛由来の単一細胞からcDNA合成を行って得た合計176サンプルのうち、ハウスキーピング遺伝子の検出ができたのは、129サンプルであり7割で良質なcDNAの合成に成功した。これらのうち、Sox2陽性のサンプルは50サンプル存在した。Sox2陰性細胞由来の34サンプルとSox2陽性サンプル由来の47サンプルのcDNAをマイクロアレイにハイブリダイズし、網羅的遺伝子発現解析を行った。 得られたデータを用いて、Sox2陽性細胞の一部に発現する遺伝子を同定するため、以下のような遺伝子プローブの絞り込みを行った。まず、Sox2陰性細胞由来のサンプル34サンプルすべてでマイクロアレイ上の発現値が3未満の遺伝子プローブを絞り込み、14424のプローブを得た。これらのうち、47のSox2陽性細胞由来のサンプルのうちで一つでも発現値が4以上になっているプローブは2520プローブ存在した。さらに絞り込みを行い、47サンプルのうち、6サンプル以上で発現が6以上になっているプローブに絞り込んだところ28のプローブ(いずれも異なる遺伝子)に絞り込まれた。 28遺伝子のうち、1つはSox2であり、本実験の妥当性を担保することができた。Sox2以外の27遺伝子のうち、3遺伝子の発生期内耳における発現パターンを検討し、少なくとも2つの遺伝子で蝸牛内のSox2陽性領域の一部に発現することが確認できた。これらの遺伝子のノックアウトマウスの作成を開始している。 また、他研究室から発表されたマウス胎児全身の単一細胞を用いた網羅的遺伝子発現解析データ(Cao et al., 2019)を用いたin silico解析をおこなった。内耳由来の細胞5000個のデータを抽出して解析を行い、発生過程で蝸牛特異的に発現する遺伝子を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目標通りのSox2陽性と陰性細胞のサンプル数をそれぞれ約50確保することができた。これらのサンプルをマイクロアレイにかけることにより、網羅的遺伝子発現解析のためのデータを取得することができた。さらに、これらのデータを解析した結果、本研究の目的であるSox2陽性細胞群のうちの一部に発現している遺伝子の候補を同定することができた。これらの候補遺伝子が、内耳蝸牛の発生過程でどのように発現しているかの検証を定量的RT-PCRとin situ hybridizationを用いて進め、予想通りSox2陽性細胞群の一部の細胞に発現している遺伝子を同定することもできた。ここまで予定通り順調に実験を進めることができている。蝸牛での発現パターンを確認できた遺伝子のノックアウトマウスの作成も複数開始しており、この点においても予定通りの研究進捗である。 また、他研究室からちょうど我々がターゲットとしている発生時期の胎児全身の細胞を用いた遺伝子発現解析の論文が発表されて、データも公表されたため、内耳細胞のデータを用いた解析も並行して行うこととした。本データは我々が行っているマイクロアレイと異なりRNA sequenceを用いた研究で異なったアプローチで網羅的遺伝子発現解析を行っているため、これまでの我々のデータとの比較や我々のこれまでの研究の妥当性を検証するため、本研究に組み込むこととした。我々が目標とする内耳蝸牛の発生過程につながるデータをより正確に網羅的に細かく得ることが期待でき、研究の質の向上に貢献すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
耳発生に重要と思われる遺伝子の候補の発現解析を進め、発現パターンを同定出来た遺伝子からノックアウトマウスあるいはトランスジェニックマウスを作成していく。すでに、いくつかの遺伝子についてはノックアウトマウスの作成を行っている。方法としては、CRISPR-CAS9のシステムに基づいた遺伝子編集技術を用いてノックアウトを行うためのコンストラクトを作成して、ノックアウトマウス作成にとりかかっている。ノックアウトを行う際には可能であれば蛍光タンパク質のノックインによる遺伝子破壊を基本的なストラテジーとする。2020年度にノックアウトの準備を始めた遺伝子のみならず、他の候補遺伝子についてこれらのマウスの作成を進めていく。また、すでに他臓器で重要な役割が報告されていてノックアウトマウスの作成が行われている遺伝子に関しては、積極的にそれらのマウスの作成者との共同研究を提案して、マウスの入手に努めることとする。 一旦マウスが作成あるいは入手できたら、胎生期における内耳発生を形態学的に観察し、また、胎生致死をおこさないことが分かった場合には、生後の内耳の形態の観察と聴力の検討を行う。内耳形態の観察は、有毛細胞や支持細胞の有無、数、列数などを切片やSurface preparationを用いた免疫組織化学法を用いて行う。聴力は聴性脳幹反応や歪音耳音響放射検査などを行う。 また、胎生致死が観察された際には、コンディショナルノックアウトマウスの準備も検討して、Creトランスジェニックマウスと掛け合わせたうえで、時間特異的あるいは臓器特異的な対象遺伝子の欠失を行ったうえで、形態学的あるいは機能的な表現型の解析を進める。
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