研究課題/領域番号 |
19H03806
|
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
小島 博己 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (60234762)
|
研究分担者 |
森野 常太郎 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (00796352)
山本 和央 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (50408449)
葛西 善行 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (60813889)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 鼻腔粘膜細胞シート / 再生医療 / 作用機序 / 動物実験 / 移植後の機能 |
研究実績の概要 |
中耳真珠腫の根治のために乳突削開鼓室形成術が実施されるが、手術により中耳粘膜が広範囲に欠損してしまった場合、中耳腔の含気不良にともなう病態の再燃や手術後の聴力低下が生じる。我々は、自己の鼻腔粘膜を細胞ソースとした培養鼻腔粘膜上皮細胞シートを患者本人に移植する新規治療法を開発し、臨床応用に成功している。本研究は、鼻腔粘膜細胞シートの移植/接着後の作用機序の解明に取り組む研究課題である。 同一個体より作製した鼻腔粘膜細胞シートを比較検討するために、鼻腔粘膜細胞シートを安定した枚数確保可能な培養方法を検討した。ヒトの鼻腔粘膜の細胞培養において、Rho kinase inhibitor (ROCKi)を添加すると細胞増殖が有意に増加することが確認でき、ROCKi添加培地にCa2+を添加することで剥離可能な細胞シートを回収できることができた。ゲル上に細胞シートを接着させるex vivo実験では、従来法で作製する細胞シートと比較してゲル上の細胞非存在部位に約3倍の細胞遊走が確認され、創傷治癒効果が向上したと考えられた (Kasai Y, et al. Sci Rep, 2020)。細胞の増殖や性質はしばしば動物の種間で大きく変動 することがあるが、ROCKiを用いるこの培養条件は、本研究計画にある、ウサギやラットの鼻腔粘膜細胞シートに応用可能であることが確認でき、GFPラット由来鼻腔粘膜細胞シートを安定して作製する培養方法も確立することに成功した。ラット実験では、Tg-GFP由来鼻腔粘膜細胞シートのヌードラット移植実験により移植した培養細胞が中耳粘膜の修復を促すこと、処置後8週まで残存した移植細胞は中耳粘膜様の細胞を呈することを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト鼻腔粘膜細胞シートの解析に当たり、細胞ソースであるヒト鼻腔粘膜が必要である。これは、当講座の鼻副鼻腔手術で破棄する組織を利用していたが、COVID-19の院内感染の影響で2020年4月から6月まで耳鼻咽喉科のすべての手術が延期となった。また当機関は研究機関であると同時に医療機関でもあるため、4月に生じた病院内のCOVID-19院内感染による対応で研究代表者および分担者の研究活動が一時的に停止したため。しかしながら、鼻腔粘膜細胞シート安定した作製方法に関する論文が掲載され、各種実験に応用が可能であることを確認することに成功してきた。また、動物実験において、細胞シート移植後の作用機序の一部を解明でき、移植後の培養細胞の性質を解析することで作用機序の解明が進むと期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
ex vivo実験は、前年度で安定した細胞シートの作製方法を活かし、ヒト骨組織およびヒト軟骨組織などへ接着させてその後の挙動を解析する。通常の培養に加えて気相化培養や低酸素培養を行い、接着後の細胞シートに存在する細胞が環境に応答して線毛細胞やゴブレット細胞へ分化し得るかどうか解析する。 ウサギモデル実験は、細胞シートが骨増生を抑制するメカニズムについて、組織免疫染色によって解析を進める。これまでに、中耳粘膜欠損部位が骨増生して中耳が段階的に狭くなる一方で細胞シート移植部位は骨増生が非常に少ない様子を捉えてきた。今後、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、増殖マーカーなどの免疫染色を行い、鼻腔粘膜上皮細胞シートが骨増生のどの段階の抑制に関わるか解析を進める。 ラットモデル実験においては、GFPラット由来鼻腔粘膜細胞シートを免疫不全ラットの中耳に移植するモデル実験を確立し、数週間にわたってGFP陽性細胞の残存が観察されてきた。今年度は移植後に残存する培養細胞の性質を解析する。段階手術検体解析は、段階手術の際に採取されたヒト中耳検体を用いて再生中耳粘膜がどのような性質であるのか解析する。免疫染色を中心に、(1), (2), (3)で得られた知見や解析手段を応用させ、実際ヒト検体において細胞シートを移植した再生粘膜部位はどのような性質であるのか、解析を進める。
|