研究課題
視神経は(網膜神経節細胞の軸索)にはさまざまな疾患があり重篤な視力障害を起こすが、再生医療研究は殆ど行われていない。我々は初めて、ヒトやマウスのiPS細胞、ES細胞から、機能をもつ長い軸索を有する網膜神経節細胞を自己分化誘導させ、その純化にも成功した。さらに、これらの幹細胞からMuller細胞の作製にも成功した。網膜神経節細胞の軸索伸長や経路探索には、Muller細胞等のグリア細胞が関与していると思われ、既に軸索成長の促進を確認し、ケミカルメディエーターの検索を開始した。本研究では、これらの細胞技術を用いて、動物への移植実験を含め、視神経の再生医療の可能性を探求することを目的とする。我々が開発した新たな細胞作製技術を用いて、視神経の構造と機能の復元を目的とする。 iPS細胞・ES細胞由来の網膜神経節細胞は栄養因子や経路探索因子の評価をin vitroで行える初めてのツールであり、栄養因子の検討とともに、Muller細胞から軸索に与えられる栄養因子を同定し、その効果を分子生物学的に検討する。移植実験は、軸索を有する分化した網膜神経節細胞を移植する初めての研究となる。既にマウス-マウス間移植の予備実験で、ES細胞由来の網膜神経節細胞をレシピエント網膜に移植し、生着して視神経内に軸索を伸ばすことが観察された。さらにヒトiPS細胞・ES細胞由来の網膜神経節細胞を純化することにも成功し、免疫不全マウスへの移植実験を開始する。視神経の軸索再生につながる網膜神経節細胞の移植研究は、将来の新たな視覚復元治療に結びつくことが期待される。
2: おおむね順調に進展している
1.iPS細胞・ES細胞由来の網膜神経節細胞の調整:iPS細胞或いはES細胞由来の網膜神経節細胞は、immunopanningの純化技術が安定した。2.神経栄養因子の検討:神経細胞の分化や軸索の伸長を亢進する栄養因子の候補化合物を1つ同定した。3.Muller細胞と共培養による分化と軸索伸長の検討:網膜神経節細胞とMuller細胞の共培養によって、網膜神経節細胞の軸索の顕著な伸長が確認された。何らかのケミカルメディエーターが存在することが示唆された。4.Muller細胞の細胞外因子の検討:培養液のプロテオーム解析を開始した。共培養と網膜神経節細胞の単独培養でサブトラクションを行い、細胞外液性因子をリストアップした。5.軸索の経路探索(pathfinding):軸索の経路探索に関わる物質について、忌避物質や誘導物質の候補をビーズ除放と動画で検討し、観察法を確立した。6.移植実験:視神経障害疾患のモデルマウスを作成する(視神経挫滅)、毛様体から硝子体内への注射によって網膜神経細胞の移植を行った。網膜に生着し、軸索が視神経内へ進入した。
1.iPS細胞・ES細胞由来の網膜神経節細胞の調整:さらにヒト細胞の純化を進め、レシピエント内で軸索を伸ばす至適な発生段階の細胞を準備する。2.神経栄養因子の検討:既に見つかった化合物について、細胞の分化度と軸索伸長や成長先端の形態を定量化して検討するとともに、マイクロアレイによって薬物動態を検討する。さらに他にも網膜神経節細胞の分化や軸索伸長に有効な化合物をスクリーニングで見出す。3.Muller細胞と共培養による分化と軸索伸長の検討:網膜神経節細胞とMuller細胞の共培養でみられた軸索の変化を病理組織科学的、ことに成長先端の免疫染色や電子顕微鏡で観察する。分子生物学的にはRTPCRやマイクロアレイによる遺伝子の発現の変化を検討する。 Muller細胞の細胞外因子の検討:網膜神経節細胞の分化開始と軸索伸長の各時期の因子を絞り込み、候補因子をin vitroで網膜神経節細胞に加え、同様の細胞分化や軸索伸長の変化が起こるかを形態学的、分子生物学的に検討する。4.軸索の経路探索(pathfinding):軸索の忌避物質や誘導物質の候補化合物の効果をin vitroで検討する。ビーズでの除放など、中枢内で道標となる物質を用いて軸索を誘導する方法を開発する。5.移植実験:毛様体から硝子体内への注射等によって網膜神経細胞の移植をさらに多数行う。ことに、ヒト細胞の免疫不全マウスへの移植実験を進める。軸索伸長を促す、あるいは経路探索の物質を同時に投与して、軸索伸長を病理組織学的に検討する。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (8件)
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