研究課題/領域番号 |
19H03811
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 有平 北海道大学, 医学研究院, 教授 (70271674)
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研究分担者 |
林 利彦 北海道大学, 歯学研究院, 准教授 (00432146)
舟山 恵美 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (10533630)
前田 拓 北海道大学, 医学研究院, 助教 (80813542)
小山 明彦 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (70374486)
古川 洋志 愛知医科大学, 医学部, 教授 (00399924)
石川 耕資 北海道大学, 大学病院, 医員 (60791374)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 内臓脂肪 / 免疫・循環系 / 大網・腸管膜 / milky spot / natural helper T細胞 / 機能的リンパ移植法 |
研究実績の概要 |
以前より縦隔炎などの重症感染症に対して大網の移植が行われてきた。近年ではリンパ浮腫に対しても大網移植が応用され、浮腫軽減やリンパ管炎の再発抑制効果が示されている。大網や腸間膜は内臓脂肪を多量に含むという特徴を有するが、これらの移植がもたらす臨床効果と脂肪組織の関わりについての詳細は不明である。 近年、大網や腸間膜の内臓脂肪中に‘milky spot’という免疫系を活性化する足場が存在すること、また‘natural helper T細胞’というリンパ球が存在することがわかってきた。そこで動物モデルを用いて、大網・腸間膜移植がもたらす感染制御・浮腫軽減効果を免疫・循環系の見地から証明し、これら組織移植のさらなる可能性を見出し、内臓脂肪組織の形成外科領域への応用を模索することを本研究の目的とした。 初年度は、血流を維持した状態での内臓脂肪移植として大網移植マウスモデルの作成を行った。C57/BL6Nマウスの腹腔内にある大網を同定し、右側を切断して血流を維持した組織弁として挙上した。臨床への応用を想定し、腹腔内を通して鼠径部から皮下へ移動し、鼠径部へ移動した。当初想定した腹部に縦切開を加えたモデルでは手術侵襲が大きく、モデルの改良を加えた。本モデルでは色素(パテントブルー)を用いて膝窩リンパ節を同定して摘出、同部に挙上した組織片の先端を移動しナイロン糸で固定した。手術操作を行った1,2週後にマウスの後肢foot padにインドシアニングリーン(ICG)を投与してリンパ流を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標として、当初の実験計画に沿って大網移植モデルの作成および手技の安定化を目標とした。 まずC57/BL6Nマウスを用いて、吸入麻酔下に腹部を縦切開し大網組織弁を挙上するモデルを作成した。大網は右側を切断し、胃側の脂肪組織および脾臓裏面の付着部を剥離することで有茎組織弁として挙上した。腹壁を貫通し下肢の皮下への移動・固定を行ったが、手術侵襲が大きく安定したモデル作成が困難であった。 そこでモデルへの改良を加え、術式の安定化を図った。腹部切開を肋骨下部に最小の横切開を加えることとし、腹腔内を通じて鼠径部腹壁から大網組織弁を皮下へ移動するモデルを作成した。腹壁を貫通した大網組織弁は鼠径部に加えた皮膚切開から皮下に誘導し、大腿皮下を通じて膝窩へ移動した。大網組織弁は、色素(パテントブルー)を用いて同定・摘出した膝窩リンパ節の位置に固定した。これにより手術時間の短縮と手術侵襲の軽減に成功し、安定したモデルの作成が可能となった。 今後、マウス後肢リンパ浮腫モデルに本術式を応用し、メラノーマ細胞をfoot padに移植することで循環系および免疫系の観点からリンパ系再構築における大網の有用性を検証する予定である。基礎となる術式の安定化が得られており、当初の予定通り進捗しているため研究は概ね順調と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はマウス後肢リンパ浮腫モデルに対して初年度に安定させた術式である内臓脂肪移植(大網移植)を行い、リンパ浮腫の改善効果が得られるかどうかを検証する。当科ではこれまでに、より臨床に即したリンパ浮腫モデル開発を模索し,マウスの後肢リンパ浮腫モデルを独自開発した実績はある(Oashi K et al.Ann Plast Surg. 2012)。モデル作成に際して,放射線照射の影響を否定できなかったため,改良型マウス後肢リンパ浮腫モデルの開発も行った。(Iwasaki D et al. Plast Reconstr Surg. 2017)。まずは下肢リンパ浮腫モデルへ大網組織弁の移植応用する際、組織血流が担保できているかを十分に評価し、必要に応じて内臓脂肪移植の術式の改良も検討する。 移植した大網組織が、リンパ浮腫という局所リンパ系機能不全の状態に対してリンパ系再構築をもたらすかどうか、FITC dextranを用いてreal timeでのリンパ流再開通の有無を検証する。また、移植した組織でのmilky spotやNH細胞を産生するFat-associated lymphoid cluster(FALC)を同定し、免疫組織学的手法、遺伝子解析等の手法を用いて検証することを目指す。 また、次年度以降の目標として、メラノーマ細胞を移植するモデルを作成し、大網組織弁移植が免疫学的観点からリンパ系再構築にどのように関わるかを検証する予定である。
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