研究課題/領域番号 |
19H03818
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
重村 憲徳 九州大学, 歯学研究院, 教授 (40336079)
|
研究分担者 |
實松 敬介 九州大学, 歯学研究院, 講師 (70567502)
高井 信吾 九州大学, 歯学研究院, 助教 (30760475)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 味覚 / 味覚障害 / オルガノイド / 味覚障害発症薬剤 |
研究実績の概要 |
突発性味覚障害は、「味がしない、いつも苦い」などの症状を示し、生活の質だけでなく栄養状態も著しく低下させる。しかし、その発症機序はほとんど不明なため、治療法は亜鉛投与などの対処療法しかない。近年我々は、昇圧ホルモン・アンジオテンシンIIが塩味を抑制することを明らかにし、これが降圧剤による薬剤性味覚障害の原因である可能性に気づいた。そこで本研究では、逆の発想で、様々な薬剤の薬理作用と新三次元幹細胞組織培養法“味蕾オルガノイド”を切り口として原因分子を探索し、その遺伝子欠損マウスを解析することで味覚障害発症の分子基盤を解明することを目的とした。本研究により味覚障害の新たな予防・診断・治療 法の開発が期待される。今年度も初年度に引き続き、“口腔内苦味”を副作用とする薬剤24種類の薬理作用を切り口としてターゲット分子を予想しつつ、分子生物学的解析および味蕾オルガノイドを用いた解析を行った。この結果、(1)抗不整脈薬フレカイニドによる味覚障害の発症に酸味受容体オトペトリン1が関与している可能性が示唆された。また、(2)苦味受容に関わる特異的分子を明らかにするために苦味特異的Gタンパク質ガストジューシン-GFPマウスをもちいて単一細胞RNAseq解析を行い、苦味特異的遺伝子群を同定しつつある。(3)その他、複数の薬剤(解熱鎮痛剤、高コレステロール血症治療薬、口腔乾燥保湿薬など)のターゲット分子が味蕾の味細胞に発現していることを分子生物学的解析により明らかにし、味覚障害発症の原因分子となり得る可能性を見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
味蕾オルガノイド(in vitro)を用いた味覚障害誘発薬剤および標的分子の絞りこみを終了し、次段階のマウス(in vivo)をもちいた味覚障害誘発性薬剤およびその阻害剤投与実験により、添加群と非添加群との間で味覚感受性、形態変化や分子発現の差があることを見出しつつある。具体的には、網羅的な遺伝子発現解析により、抗不整脈薬、口腔乾燥予防薬、解熱鎮痛剤と高コレステロール血症治療薬のターゲット分子のmRNAが味蕾に特異的に発現していることを明らかにし、さらに味細胞マーカーに GFPを発現させた遺伝子改変マウスを用いた免疫組織化学解析により、ある特定の味細胞マーカーと共発現していることをタンパク質レベルで見出している。加えて、味溶液飲水行動実験により、薬剤投与マウスはある特定の味質に対してその感受性を変化させていることを明らかにした。さらに、苦味受容に特異的に関与する遺伝子を明らかにするために単一細胞胞RNAseqトランスクリプトーム解析を行うことで新規の味覚障害発症メカニズムの探索にも着手している。これらの研究成果の中で、既に論文にまとめることができたものもある。以上のように、味覚異常の原因となり得る候補分子を複数明らかにし、その機能解析を行い、さらに新規メカニズムの探索にも着手していることから概ね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度までに絞りこんだ候補薬剤とそのターゲット分子については、引き続き味覚研究ルーティーンを遂行する。薬剤をマウスに投与し、味覚感受性の変化を行動・味神経・味細胞の各レベルで詳細に解析する。行動応答では、薬剤投与後の味溶液に対するリック (舌出し回数)計測・嚥下観察から、特に味質特異的な摂食行動の変化があるか注目する。オルガノイド解析と同様に、阻害剤や活性化剤も利用する。また、行動解析後に行う味神経応答では、薬剤投与後の味神経における溶液に対する応答から、味覚感受性(特に苦味)に特異的な変化があるかを調べる。その後、舌を採取し、形態学的に、味蕾サイズ、味細胞数、候補分子と味細胞マーカーGFP発現の変化について解析を行う。味蕾RNAseqトランスクリプトーム解析により炙り出した新規苦味関連分子に関しては、味質特異性を調べるために共発現解析を中心とした分子生物学的解析を進める。最終的には、候補遺伝子欠損マウスを購入またはCRISPR/Cas9システムにより作出し、その味覚感受性の変化を行動・味神経・味細胞の各レベルで詳細に解析することで機能を明らかにする。
|