研究課題
化膿レンサ球菌が感染した局所では,宿主の細胞や組織による炎症応答が細菌の遺伝子発現に影響を与えていると推察し,感染局所における細菌の遺伝子発現をRNA-seq解析により網羅的に評価した.劇症型感染症由来の血清型M1型化膿レンサ球菌5448株をマウスの皮膚に感染させ,壊死性筋膜炎マウスモデルを構築した.感染組織から細菌由来のRNAを分離し,RNA-seq解析を行った結果,化膿レンサ球菌は感染局所において,アミノ酸・糖質などの栄養利用経路や毒素の発現を上方制御する一方で,酸化ストレス反応や細胞増殖に寄与する分子を下方制御することが明らかになった.また,皮膚感染症由来の化膿レンサ球菌を用いて温度変化による線毛産生量への影響を検討したところ,転写因子であるRalp2を有する菌株のみが低温でのみ線毛を産生することが示された.変異株を用いた解析から,Ralp2は線毛遺伝子に対する正の転写因子であり,Ralp2 mRNA翻訳開始コドンの下流に位置するステムループ構造が温度感知を担うmRNAサーモセンサーであることを証明した.Ralp2を有する菌株は皮膚から分離される頻度が高いことから,温度感受性の線毛産生は皮膚感染に重要であることが示唆された.肺炎球菌は,肺炎や敗血症などの主な原因菌である.肺炎球菌の全ゲノム情報から,菌体表層タンパク質をコードする遺伝子群を選出し,分子進化解析を行った.負の選択下にあるコドンの割合が低いPfbAは,感染時の過剰な免疫応答を抑制することで宿主の死亡率を低下させることを明らかにした.A型インフルエンザウイルス (IAV) 感染により亢進する宿主ー細菌間相互作用を解析した.IAV感染気道組織では,小胞体局在シャペロンであるGP96の細胞表層での発現が誘導され,二次的に感染する肺炎球菌や化膿レンサ球菌に対する宿主レセプターとして機能することを証明した.
2: おおむね順調に進展している
ウイルス感染により発現する宿主分子の検索を行う過程で,感染細胞の治療標的となりうる新規現象が見出された.研究を遂行するうえで情報伝達解析が必要不可欠であったため,次年度に繰越を行うことで感染宿主と細菌間の相互作用を詳細に解析し,ウイルス感染により誘導されるストレス応答分子が肺炎の治療標的として有効であることを証明した.以上の理由から,「おおむね順調に進展している」と判断した.
病態増悪因子として同定したGP96のコンディショナルノックアウトマウスを作製し,重複感染系に応用する.各群 (非感染群,IAV 単独感染群,肺炎球菌単独感染群,重複感染群) の病態と感染感受性の違いを病巣サイズ,体重減少,生存率,血液・各臓器中の菌数とウイルス価を指標に検討する.マウス感染モデルにおける炎症応答を評価するため,経時的に血清中の炎症性サイトカイン量を測定するとともに,気道と肺組織における好中球の遊走量を検討する.各臓器中の菌数を計測することにより,細菌の全身伝播を検証する.採取した臓器の組織標本を作製し,病理検査を行う.病原因子として挙がった細菌因子の構造遺伝子DNA配列を,登録されている全ての菌株のゲノムDNA配列から抽出し,多重配列整列を行う.最尤法とベイズ法による分子系統樹作成を行い,コドン配列を基にした進化的な機能制約解析を行う.同義置換の割合と比較して,非同義置換の頻度が相対的に低い分子を選出する.既報の病原因子や機能未知の細菌因子群についても,機能制約解析を行う.宿主因子については,哺乳動物間の配列共通性と特異性を確認する.挙げられた細菌因子群について,温度感受性プラスミドを用いて遺伝子欠失菌株を作製する.病態形成への関与が確認された細菌因子の組換えタンパク質をマウスに免疫し,血清中の抗体価を ELISA により確認する.抗体価上昇が認められない場合,追加免疫を行う.経鼻免疫を行ったマウス群の鼻腔内に肺炎球菌を感染させ,マウス生存率,病理組織像,各臓器の菌数を非免疫群と比較することにより,各抗原のワクチンとしての有用性を評価する.
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
Mol Microbiol
巻: 113 ページ: 173-189
10.1111/mmi.14408
Protein J
巻: 39 ページ: 1-9
10.1007/s10930-019-09875-y
J Allergy Clin Immunol
巻: 143 ページ: 1163-1175
10.1016/j.jaci.2018.07.006
Commun Biol
巻: 2 ページ: 96
10.1038/s42003-019-0340-7
Microbiol Immunol
巻: 63 ページ: 213-222
10.1111/1348-0421.12688
Front Cell Infect Microbiol
巻: 9 ページ: 301
10.3389/fcimb.2019.00301
Appl Environ Microbiol
巻: 85 ページ: e01428-19
10.1128/AEM.01428-19
J Clin Med
巻: 8 ページ: 1440
10.3390/jcm8091440
大阪大学歯学雑誌
巻: 64 ページ: 5-7
http://web.dent.osaka-u.ac.jp/~mcrbio/