研究課題/領域番号 |
19H03828
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
前川 知樹 新潟大学, 医歯学系, 研究教授 (50625168)
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研究分担者 |
土門 久哲 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (00594350)
砂塚 敏明 北里大学, 感染制御科学府, 教授 (30226592)
寺尾 豊 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50397717)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DEL-1 / 骨免疫学 / 破骨細胞 / 骨芽細胞 / 免疫調節 / 骨再生 / 骨代謝 / エリスロマイシン |
研究実績の概要 |
歯周炎は慢性炎症に伴う歯周組織の破壊を特徴とし,心疾患や関節リウマチ,糖尿病など様々な全身疾患への憎悪的な波及が示唆されている.歯周病原細菌は,歯周組織への過度な好中球の浸潤を促し,炎症性サイトカインや骨吸収促進因子の産生を引き起こすことで破骨細胞を活性化し,骨破壊を誘導する.これまでに血管内皮細胞の産生するDEL-1が,好中球の走化性を低下させ過度な炎症を抑制すること,破骨細胞の分化および骨吸収活性を抑制すること,およびDEL-1は破骨細胞自身からも産生され,破骨細胞分化を負にフィードバックすることを明らかにしてきた. 令和元年度には,DEL-1の発現制御機構,およびDEL-1による炎症制御・破骨細胞分化・骨吸収活性の抑制メカニズムを統合的に解析した.すると,DEL-1の歯肉への直接的な接種によるマウス歯周炎モデルでの歯周炎抑制効果が認められた.さらにDEL-1には破骨細胞への骨吸収抑制作用だけではなく,骨芽細胞に作用し,骨の再生を促している可能性を見出した.そこで,令和2年度は,DEL-1の誘導効果が高いマクロライド系抗菌薬の一つであるエリスロマイシンによるDEL-1誘導経路の同定とDEL-1による骨破壊抑制機構および歯周炎と同様な粘膜疾患である肺炎での抗炎症作用の解明を目指した.具体論として,エリスロマイシンのDEL-1誘導経路同定には,DEL-1産生細胞である血管内皮細胞および破骨前駆細胞を用いた.エリスロマイシン全身投与モデルでは,マウスの肺および歯周組織を対象とした解析をおこなった.マウスは野生型およびDEL-1ノックアウトマウスを使用することにより,エリスロマイシンによる効果がDEL-1依存的なのかを確認できるようにした.これらにより,エリスロマイシンに強いDEL-1誘導能があること,誘導されたDEL-1に抗炎症作用および骨再生能が存在することが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和2年度は当初予定されていたDEL-1の詳細な誘導シグナル解析とDEL-1による破骨細胞抑制効果の他に,新規に骨再生の機能を同定することができた.特に骨再生については,DEL-1による間葉系幹細胞(aSMA陽性細胞)の増殖・分化促進をしていることを見出した.また,エリスロマイシンによるDEL-1の誘導と抗炎症作用の成果は,歯周炎および肺炎を対象とした粘膜疾患に共通して見出される新しい抗炎症治療のさきがけとなると予想される.同結果に関連する論文がQ1に位置する国際雑誌3報に受理・出版された. これらの成果により,1年ほど予定を早め,エリスロマイシンおよびDEL-1を強力に誘導可能かつ抗菌作用を除去したエリスロマイシン改変体による抗炎症・骨吸収抑制および炎症寛解後の骨再生を目指した臨床研究へつなげていく予定である.さらにDEL-1が加齢により減少していくことから,エリスロマイシンによる抗加齢疾患への治療戦略として発展しつつあり,海外研究者との共同研究(シンガポール大学・コロンビア大学)が新しくスタートするとともに,DEL-1を中心とした抗加齢コンソシアムの形成を目指している. 以上のことから,当初の計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度も,令和2年度と同様に新型コロナウイルスへの対応を加味しながら,実行可能かつ予定されている研究を迅速に遂行する. まず初めに,DEL-1の炎症寛解作用および骨再生機能についての解析を行う.令和2年度の成果により,DEL-1が歯根膜中の間葉系幹細胞(以下MSC)の分化・増殖に関わっていることを見出した.歯根膜中のMSC自身もDEL-1を発現していることから,加齢によって弾力性を失った再生能力をDEL-1を誘導することで再活性化できないか試みることとする.加えて,老化を模倣した老化細胞へのDEL-1添加によって老化細胞の除去が認められたことから,DEL-1によるsynolysisを予想している. その際に,血管内皮細胞と破骨細胞に強力にDEL-1を誘導する選定されたマクロライド改変体を用いることを考えている.マクロライド改変体は研究分担者により構築されたものを使用する.当初予定されていたマクロライド改変体が機能する受容体の同定は,すでに令和元年度および令和2年度におこなった研究によりGHSRが同定された(既に報告済).実はGHSRは食欲ホルモンであるモチリンの受容体でもあることから,加齢マウスにおいてもその発現は減少していなかった.そこでマクロライドが加齢マウスにおけるGHSRに作用し,減弱したDEL-1発現を強制的に上昇させ,抗炎症および骨再生へ展開できる可能性が高い. エリスロマイシンによる骨再生については,他大学との歯工連携による高濃度エリスロマイシン含有ゲルによる抗炎症と骨再生を目的とした歯周病の再生治療への臨床研究展開を目指す.
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