歯はそれ自身で自己再生出来ないため、う蝕や歯周病などで歯が欠損した場合、金属やレジンなどの生体材料を用いた保存治療や補綴治療が行われる。金銀パラジウム合金は、日本で保険適用されている生体材料であり、患者のQOLを高めているものの、金属炎症やアレルギーなどの為害性も報告されている。本研究は、応募者らが開発した金属アレルギー動物モデルおよびT細胞受容体解析技術を用いて、金属反応性T細胞受容体を特定して新規診断・治療法の開発基盤を構築することを目的としている。2021年度は、歯科金属で広く利用されているパラジウムを題材に、パラジウムアレルギーの発症の分子機構の解明を行った。抗原提示細胞の細胞培養の環境下で、パラジウム溶液を添加すると、パラジウムイオンにより、抗原提示細胞上のMHC class Iの一過性の発現低下が起こることを発見した。また、MHC class Iの一過性発現低下ののち発現回復の過程で、抗原ペプチドに変化があり、通常発現しないはずのペプチドに置換されることを見出した。さらに、パラジウムによる抗原ペプチド置換によりアレルギー抗原が発現し、アレルギー性T細胞が活性化されることが明らかになった。これまで金属アレルギーの病因は不明だったため、金属アレルギーの治療は、原因金属の置換や抗炎症薬投与などの対症療法にとどまっていた。本研究成果をもとに、金属によるMHCクラスIの細胞内在化を抑制すること、抗原ペプチドの置換を防ぐこと、などで、金属アレルギーの新しい治療法が開発できると期待される。
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