研究課題/領域番号 |
19H03844
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
澤瀬 隆 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 教授 (80253681)
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研究分担者 |
佐々木 宗輝 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 助教 (10706336)
右藤 友督 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 助教 (10816680)
黒嶋 伸一郎 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 准教授 (40443915)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インプラント / 荷重 / 骨質 / 骨関連細胞 / 配向性 / コラーゲン / Semaphorin3A |
研究実績の概要 |
デンタルインプラントは顎骨骨組織と直接接合して荷重を担うことから,周囲骨の量的・質的状態が極めて重要である.現在は専ら既存骨量の観点からインプラント治療計画が立案されるが,患者の高齢化に起因して,服用薬剤や全身疾患の影響を受けた顎骨の骨質は患者ごとに全く異なっている.さらに顎骨の加齢変化や病態変化はインプラントの荷重時期と荷重量にも影響を与えるが,その分子生物学的機構や標的分子は全く分かっていない.一方我々研究グループは,荷重環境下におけるインプラント周囲の骨質研究に先駆的に取り組み,骨質にはコラーゲン/生体アパタイト結晶複合体の荷重抵抗性優先配向と骨関連細胞のクロストークが重要で,最終的には骨質制御候補分子としてSemaphorin3Aの関与を見出した.そこで本研究課題は,加齢と病態変化がもたらすインプラント周囲骨の骨質変化を解明し,適正な荷重条件と時間依存性荷重誘発型骨質最適化分子を探索することを目的とした.本年度は,健常ラットを用いたインプラント埋入モデルを作製し,早期荷重と通常荷重がインプラント周囲の骨質に与える影響を網羅的に解析した.その結果,早期荷重群では通常荷重群と比較して,骨関連細胞分布の増大,コラーゲン配向性の優先配向,ならびに,Semaphorin3A,分子X,分子Yの産生増大や抑制が認められ,創傷治癒との相加・相乗作用により,有意に骨質が向上することを突き止めた.本研究成果は最適な骨質の獲得に荷重付与のタイミングが関与していることを意味するものであり,重要な知見と思われた.なお,成果は種々の学会で報告され,現在論文投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度で健常ラットを用いたインプラント早期荷重モデルが構築でき,さらに病態モデルとして,インプラント周囲ビスホスホネート製剤関連顎骨壊死モデル,ラットインプラント周囲炎モデル,ならびに,卵巣摘出により誘導された骨粗鬆症による2種類の骨質劣化モデル,さらには,骨粗鬆症を治療する骨質向上モデルを作製中であることから,総合的に鑑みて,おおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
1)作製中である3種類の骨質劣化型インプラント埋入モデルと骨質向上型インプラント埋入モデルの作製を完了させ,早期荷重と通常荷重の付与を行う.そして屠殺後にサンプルを採取し,組織学的(澤瀬,佐々木),構造学的(右藤,稲葉),免疫学的・分子生物学的(黒嶋,佐々木),生化学的(稲葉),遺伝子工学的(黒嶋),材料・組織工学的(右藤),そして総合的な観点(澤瀬)から骨質を多面的に網羅解析し,健常ラットを用いたインプラント早期荷重/通常荷重モデルとの比較検討を行うことで,骨質制御候補分子を骨質変性型モデルごとに2~3個選択する.候補分子が既知の蛋白質なら,蛋白質自身か,阻害薬もしくは中和抗体を,一方,候補分子が未知の場合には蛋白質同定プロファイリングによる構造解析後(受託),蛋白質か中和抗体を精製してそれらを骨質正常型マウスインプラントモデルに投与し,骨質変性型モデルに特徴的な骨質へと変化すれば,骨質制御分子が同定されたことになる. 2)既報に従って荷重量の変更を行い,早期荷重と通常荷重と組み合わせてさらに骨質解析を行う.1)で同定した各骨質の骨質制御分子を参考にしながら,骨質制御分子を探索・選択し,その中から最も骨質が向上された骨質制御分子を各骨質変性モデルに対する時間依存性荷重誘発型骨質最適化分子と命名し,選択する.最終的にはこの分子をコードする遺伝子に対するsiRNAを顎骨内投与した後に荷重を付与し,荷重応答性最適化分子の産生を強制的に抑制して骨質の向上が起こらなければ,各骨質変性モデルにおける骨質最適化分子と最適な荷重時期・荷重条件が決定したことになる.そして最後に,高齢患者に対して最適な骨質を提供できる荷重条件選定ガイドラインの策定を行い,同定された時間依存性荷重誘発型骨質最適化分子を標的とする新しいインプラント治療への基盤構築に挑戦する.
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