研究課題/領域番号 |
19H03846
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
柳川 徹 筑波大学, 医学医療系, 教授 (10312852)
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研究分担者 |
田渕 克彦 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (20546767)
蕨 栄治 筑波大学, 医学医療系, 講師 (70396612)
山縣 憲司 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (00420084)
内田 文彦 筑波大学, 附属病院, 病院講師 (70736008)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | p62 / 口腔癌 |
研究実績の概要 |
I. 基礎的探求として、1.in vitroの解析:前年度までに制作した p62の核排出シグナルのNES(NES: Nuclear export signal)配列に変異を入れたΔNESp62とp62発現ベクターをp62-/-MEF細胞に導入し、レプトマイシンB(LMB)処理でp62の核蓄積による変化の観察を継続した。LMB毒性はp62-/-では低下しており、p62発現ベクターを導入すると毒性は増加した。ΔNESp62を導入するとp62が核に蓄積しユビキチン化タンパク凝集体の形成を認めた。 2.in vivoの解析: FLExとCre ERT2システムの予定を変更し、NESとNLS(NLS: nuclear localization signal)配列のNLS2にゲノム編集で変異を挿入したp62 NES MUT、p62 NLS MUTのノックインマウス2種類の制作を完成させた。それぞれp62が核内、細胞質内に留まるシステムとなっており、二つのマウスのフェのタイプを比較によってp62の核の局在の意義を検討する事とした。p62 NLS MUTマウスは正常に成育したが、p62 NES MUTマウスは7週齢頃で致死となった。 II. 臨床的探索として、前年度までに収集した口腔白板症患者病理および臨床データからp62の核内集積、p62の凝集、p62の細胞質内集積と局在を3つのパターンに分類し、p62の局在のと上皮異形と関連を検討したところ、多変量ロジスティック解析では、上皮異形とp62核内集積(p=0.024)、上皮異形とp62凝集(p=0.048)で、有意差を認めた。免疫組織化学的にp62核内集積とp53の関連性に(p=0.031)で有意差を認めたが、8‐OHdG、Ki67、p53の関連性に有意差は認められなかった。以上から、臨床標本ではp62の核内集積と上皮異型と関連性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.in vitroの解析についてはΔNESp62とp62発現ベクターの制作やp62-/-MEF、野生型細胞への導入、また、蛍光顕微鏡による局在の同定した結果、p62の核と細胞質とのシャトリングと細胞のApoptosisとの関連が予想通りの帰結として明らかになった。また、p62-/-細胞はLMBに対し抵抗性を持つことが解り、この原因はp62は細胞質―核をシャトリングし、核に蓄積しユビキチン化蛋白とともに凝集体を形成することでLMBの細胞毒性の一部を担っていると考えられた。以上から、in vitroの解析は予定以上のペースで結果が得られている。 2.in vivoの解析については、当初の計画のコンディショナルノックインの制作を、p62 NES MUT、p62 NLS MUTのノックインマウスに変更し、F0 50匹をPCRとシークエンス検査にてスクリーニングし、目的のゲノム編集が行われているF1が数匹ずつ誕生し、WTと交配して変異遺伝子を持つF1ヘテロ、さらには、ヘテロを掛け合わせ、ホモをが完成した。フェノタイプ解析を開始してp62 NES MUTマウスは7週齢頃で致死となることが判明し、その原因のフェノタイプ解析を開始した。 II. 臨床的探索として、前癌病変の口腔白板症患者のパラフィン包埋組織および臨床指標、病理の指標の収集やp62抗体、8-OHdG抗体、Ki67抗体、p53抗体を用いて免疫組織化学染色も完了し、統計処理を行って、p62核染色とp62凝集と上皮異形の関連性に有意差を認めたことから、p62の核の蓄積が異型上皮との関連性を見出した。 以上から、新型コロナウイルス感染症の流行にともなってマウス維持が困難になるというリスクを抱えていたものの、おおむね順調に進んだと考えられている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策としてはI. 基礎的探索として 1.in vitroの解析についてはベクターの制作から細胞への導入は順調に進み、p62はCRM1依存的に速やかに核排出を受けているタンパク質であることが確認され、ユビキチン化蛋白とともに、細胞質―核をシャトリングしていたp62が核に蓄積し凝集体を形成することがLMBの細胞毒性の一部を担っていると考えられる。このALIS(aggresome-like induced structures)形成のどこに細胞死が関わるのか、また、細胞死が酸化ストレスは代表的なプログラム細胞死であるアポトーシス以外にも、最近の研究から、ネクロトーシスやフェロトーシス、ピロトーシスやパータナトスなど、様々な様式の細胞死が示されているので、これらの可能性も考慮して解明して行く方針とする。また、酸化ストレスとしてハイドロキシノネナール刺激によるp62の細胞内局在も検討していく。 2.in vivoの解析については、当初のコンディショナルノックインの制作からNESとNLSに変異をいれたマウス2種の比較に変更することによって問題を解決し、順調にフェノタイプの解析に進んだ。期待されたp62の生体内での局在の変化以外にも出生後7週程度で致死になるという想定外の興味深いフェノタイプを見つけたことによって、口腔癌の発癌のモデルとしての利用以外にも、全身の臓器の検索を行って病理学的に原因の解析を進める方向性にも発展させたいと考えている。 II. 臨床的探索については、口腔白板症患者の病理検体および免疫組織化学染色も想定外に順調に進み、p62核染色とp62凝集と上皮異形の関連性についても検討やオートファジー、酸化ストレス、アポトーシス関連の免疫染色の検討もほぼ終了した。臨床的探索については、今後は基礎データとの整合性や癌化との意義についての検討を進めていく予定である。
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