研究課題/領域番号 |
19H03868
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 悠輔 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (30378658)
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研究分担者 |
高島 響子 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 上級研究員 (10735749)
山本 圭一郎 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 臨床研究センター, 臨床研究統括部生命倫理研究室 室長 (50633591)
松井 健志 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究支援センター, 部長 (60431764)
大北 全俊 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (70437325)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 医療倫理 / 公衆衛生倫理 / 医療情報 / プライバシー / ラーニングヘルスケア |
研究実績の概要 |
本計画は、ラーニング・ヘルスケア・システムの可能性と限界について、臨床倫理・研究倫理に加え、公衆衛生倫理を加味して検討を行い、現在の倫理規範や関連制度に欠けている視点・論点を特定し、医療ビッグデータ時代の新しい道徳的基盤を提案することをめざす。 2年度目に当たる令和2年度は、各研究者が、それまでの個別の検討テーマを土台としつつ、上記の検討目的に沿った成果を発表する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえ、大きな影響を受けた。 成果の主たる検討のひとつは、「ラーニング・ヘルスケア・システム」の思想面をまとめた、本邦で初めての入門・概説の文書を刊行したことである(「ラーニング・ヘルスケア・システムの思想:“進化し続ける医療”を支える道徳規範をめぐる議論」、医学のあゆみ 276(9) 871-875、2021年)。2000年代後半以降米国では医療現場や患者の生の情報を体系的に運用することを軸とした “ラーニング・ヘルスケア・システム" モデルが提唱され、注目を集めている。知識生産(learning) を医療本来の活動のひとつとして位置づけ、実臨床で得られる情報の活用と現場への成果の還元をめぐり、医療者および患者などの役割再編を主張する。 筆者らは、この指摘には従来の“倫理審査" 批判以上の意味があると考える. 診療情報の利活用をめぐる個人と集団の利益の対立をどう乗り越えるか。個人医療情報の保護と活用を支える、次世代の倫理的基聾に向けた議論のヒン卜があるかもしれない。 その他、各分担研究者により、研究活動中に生じた副次的な初見への対応、この間の新型コロナウイルス感染症に触発された検討をめぐる重要な成果が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、医学(医師)、公衆衛生学、生命・医療倫理学、哲学/倫理学の専門家などによる学際的なチームによって、以下の点を成果目標として取り組むものである。検討の軸の1は「集団の健康水準と個人の「貢献」」であり、これは文献調査(公衆衛生倫理に関する理論的検討)、従来のプライバシー概念を問い直し、個と集団との連携・共同作業としてのラーニング・ヘルスケアの位置づけを図るものである。続いて、2として「データセットの正義論」を考える。ここではデータセットの運営と利益配分のあり方をめぐる議論を考える。90年代以降の政策文書の検討と文献検討が主となる。3は「観察研究の倫理規範再考」であり、リアルワールドデータを駆使する観察研究のあり方を再検討し、倫理規範(グッド・データ・プラクティス)の要素を特定する。文献検討による従来の研究倫理規範の分析が手法となる。研究会を開催して、主に文献検討をしつつ、また対面もしくはテレビ会議形式、メール上での議論を行うことなどを通じて、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、医学(医師)、公衆衛生学、生命・医療倫理学、哲学/倫理学の専門家などによる学際的なチームにより展開される。「理論検討」を基軸としつつ、海外の有識者の助力を得ての「対話・議論」、最終的な「総括・政策提言」といった段階を経る。「理論検討」では、過去の公衆衛生倫理の課題を振り返りつつ、個の権利・利益と集団の健康とのよき連携を考える観点から、上記の3つのテーマに沿って検討を行う。手法は、過去の主張や政策文書などについての文献研究(文献調査)である。「対話・議論」では、海外の研究者も含めた、外部の有識者を交えての対話・議論の場を複数回設定し、我々の暫定的な方向性・主張を検証し、必要に応じて軌道修正するために、定期的にフィードバックを得る機会を設ける。最初の2年度間の検討を踏まえ、3年度目は、上記の作業を継続しつつ、加えて一定の段階で国内外の専門家・協力者との議論や対話を実施し、フィードバックを得、議論の妥当性・客観性を確保することとなっている。これらを経て、最終年度は、成果をまとめ、学術的な知見について発表するほか、実際の制度に関する具体的な論点をまとめた政策提言を発表する。
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