研究課題/領域番号 |
19H03885
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
及川 伸二 三重大学, 医学系研究科, 准教授 (10277006)
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研究分担者 |
村田 真理子 三重大学, 医学系研究科, 教授 (10171141)
小林 果 三重大学, 医学系研究科, 講師 (70542091)
冨本 秀和 三重大学, 医学系研究科, 教授 (80324648)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 認知症 / プロテオミクス解析 / 血液 / バイオマーカー / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
現在、わが国の認知症患者は約600万人と推定され、2025年には高齢者の5人に1人(20%)が認知症になると推計されている。認知症の早期段階は、家族や本人が認知症に気づかず病院を受診しないことから発見が遅れ、その後の進行や治療にも大きな影響を与える。アルツハイマー病などの多くの認知症は、発症すると根治療法が無いため、患者のみならず家族の生活の質(QOL)を著しく悪化させる。従って、検診などで高齢者に広く応用できる早期診断ツールの開発が必要であることから、認知症の大部分を占めるアルツハイマー型認知症と血管性認知症を早期に診断できる血液バイオマーカーを、両疾患の共通の原因の一つである酸化ストレスに注目し解析を行う。本研究では、前述した目的を達成するために、アルツハイマー病と血管性認知症の患者、健常者から採血を行い、血液から血漿やエクソソームを分離しタンパク質を単離精製後、プロテオミクス解析などを行いバイオマーカー候補を明らかにする。本年度は、神経心理テストで認知症の境界状態の患者の中から記憶に関する項目の評価が低い患者とそれ以外の項目の評価が低い患者、健常者の3群の血漿において、プロテオミクス解析を行って酸化ストレスに関与するタンパク質を中心に探索を行い、いくつかの興味深いタンパク質の変動を認めた。同時に血漿からエクソソームの回収も行ったが、回収率が酸化損傷タンパク質の解析を行う程度にまで濃縮できなかったため、回収方法の検討を今後も継続する。また、本年度は、アルツハイマー病との関与が強く指摘されているβ-アミロイドの凝集を抑制する抗酸化物質モリンの安全性についても検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年に引き続き、早期の認知症患者と健常者から血液を採取したが、新型コロナウィルス感染症のため計画通りには進まなかった。採取を行えた血漿については、解析の障害となる高濃度タンパク質(アルブミンなど)を除去し、次いで精製キットを用いて、タンパク質の精製・濃縮を行った。濃縮後のタンパク質サンプルを定量性に優れた蛍光色素で標識を行い、等電点で分離(一元電気泳動)後、二次元電気泳動により個々のタンパク質に分離しイメージアナライザーで各タンパク質スポットの蛍光強度を測定し、専用の解析ソフトで変動量を解析した。その中で、記憶に関する項目の評価が低い患者とそれ以外の患者、健常者の3群の血漿中で変動が認められたスポットが検出された。現在、酸化ストレス応答に関与するタンパク質を中心に解析を進めている。一方、血漿中からゲル濾過クロマトグラフィー法などを用いてエクソソームの単離を行ったが、酸化損傷タンパク質の解析を行う必要量の回収には至らなかった。さらに、早期における認知症介入の一つの手段として、アルツハイマー病の原因の一つと考えられているβ-アミロイド凝集を抑制する抗酸化物質モリンの安全性についても検討を行った。その結果、モリンはβ-アミロイド凝集抑制作用と同時に、酸化促進作用も併せ持つことが明らかになった。酸化促進作用は、生体に悪影響を引き起こす可能性があるため、さらなる検討を進める。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き認知症患者の血液の回収を続ける予定であるが、新型コロナウィルス感染症のため、回収が困難な状況である。既に回収した血液については、タンパク質についての変動解析を引き続き行っていく。さらに、酸化損傷タンパク質の変動解析についても引き続き検討を進めていく。血漿中からのエクソソームの回収については、市販のエクソソームを購入したので、いくつかの回収方法を検討していく。さらに、モリンをはじめとするβ-アミロイド凝集抑制抗酸化物質の安全性についても検討を行っていく。
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