研究実績の概要 |
世界的な公衆衛生上の問題である食生活の変化、肥満人口の増加を背景に、脂肪肝は増加傾向にある。本研究は大規模健診データの解析により、非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD)の疫学的実態およびその自然史を解明することを目的とした。 本研究では、匿名化された大規模健診データ(2008-2019年、合計856,296人分)を基に、飲酒量情報および健診エコー受診情報を有する75,670人のデータベースを構築した。同データベースの解析により、一般集団におけるNAFLDの自然史について、数理疫学モデルを用いて予測した。 2回以上健診エコー検査を受けたことがある非飲酒者38,456人(Data ユニット数 222,825)を解析対象とした。健診時エコー所見とAge-specific FIB4-indexの組み合わせにより、年度ごとに肝病態を『正常肝』『脂肪肝』『線維化を伴わないNASH』『線維化を伴うNASH/肝硬変』に分類し、性・年代別肝病態1年推移確率を算出、Marcovモデルを用いて肝病態推移を予測した。その結果、男性(40歳・非飲酒・正常肝)の場合、70歳時点の脂肪肝有病率は33.4%、線維化を伴わないNASH有病率は0.2%、線維化を伴うNASH/肝硬変有病率は0.7%となった。女性の場合、同割合は29.2%、0.6%、0.7%であった。健診コホートデータの限界として、要精検となった肝疾患症例が脱落するため、肝がんへの推移は評価困難であった。 本研究の結果から、日本の一般集団においては、40歳時点では肝臓が正常であっても、70歳時点では男女とも約3割は脂肪肝に罹患しており、1%程度がNASHに罹患していると予測された。将来の疾病負荷低減のために中高年の生活習慣改善が急務と考えられた。
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