これまでの研究によって、脳の疲労と疲労回復が、身体の疲労と同様にeIF2αリン酸化と脱リン酸化と関連していることを示した。また、疲労によって唾液中への再活性化量が増加するヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)が嗅球での潜伏感染時に産生するタンパク質SITH-1が、視床下部-下垂体-副腎皮質軸(HPA axis)を亢進させることでうつ病を引き起こすことを見いだした。 これらの成果を受けて、SITH-1発現マウス(SITH-1マウス)に疲労負荷を与え、うつ病につながる脳疲労の部位とメカニズムを明らかにすることを目的に研究を行った。方法としては、ウエスタンブロッティングや病理切片を利用して、疲労負荷を与えたSITH-1マウスの脳細胞でのeIF2αリン酸化やeIF2αリン酸化に関連するシグナルであるATF3、ATF4、C/EBP homologous protein (CHOP)の発現誘導を観察した。また、脳疲労からうつ病につながるシグナル伝達経路を検討するために、TaqMan Array を用いて、eIF2αリン酸化に関係するシグナル分子の発現変化を詳細に検討した。疲労負荷は、SITH-1マウスがうつ症状を持つために運動負荷をかけることができないため、water cageを利用した不眠負荷をかけた。 この結果、全身の疲労による炎症性サイトカイン産生生じるものの、これが持続的な脳の炎症を生じさせないように脳を守る機構があり、HHV-6 SITH-1はこの防御機構を減弱させることで脳の炎症を誘導させ、脳疲労やうつ症状をもたらすことが判った。この機能は、脳が病的疲労やうつ病を生じないように生体に備わったストレスレジリエンス機能の少なくとも一部であると考えられた。
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