研究実績の概要 |
引き続きトランスクリプトーム解析の結果について分析を進めた。結果は、少数の遺伝子の発現量が石綿曝露に共通し影響を受けていることを示し、他方でクロシドライトはクリソタイルと一部異なる曝露影響を与えることが分かり、両石綿における異なる免疫機能影響を示した。得られた情報を基盤とし、悪性中皮腫患者の末梢血における免疫動態の解析を進めた。ニボルマブ治療効果は、部分奏効(PR)、病状安定(SD)、増悪(PD)に区別された。細胞表面分子、細胞内mRNAレベル血中サイトカイン濃度の何れについても、SD+PR群とPD群の群間差を捉えることは出来なかった。一方、治療効果PRを示した症例については、他と比べて異なる特徴を見いだすことができた。Th上のCD25%とCTLA-4%およびCTL上のHLA-DR%、加えて刺激後NK中のIFN-g mRNAレベルが継続して高い傾向であることが明らかとなった。ThにおけるCD25(IL-2Rα)の発現は活性化の指標であると同時にCD4+CD25+Treg細胞との関わりも考えることができた。実際、CD25%はCTLA-4%と有意な正の相関を示すことから、CD25%の高値は活性化ではなくTreg細胞の増加を意味していると解釈することができた。 そこで、これら4因子について主成分分析を行ったところ、2つの主成分が抽出出来た。主成分1,2はPR症例では常に高値を示し、SD,PD群間に差は見られなかった。主成分1,2をプロットした図では、PR症例は独立した座標に位置し、他とは異なる免疫学的特徴を持つことが明らかとなった。以上より、ニボルマブ投与による悪性中皮腫の治療奏効と関わる免疫学的特徴として、 1)NKのIFN-γ産生誘導能が高く 2)活性化CTLが多く 3)Treg細胞が多い、という3要素の重要性を見いだすことができた。ニボルマブによりPD-1分子を介した免疫抑制が解除されることで、備えていた強いNK細胞機能と活性化CTLの機能が解放された結果、明瞭な腫瘍抑制効果に至った可能性が示唆される。
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