研究課題/領域番号 |
19H03896
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯島 勝矢 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 教授 (00334384)
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研究分担者 |
田中 敏明 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 特任教授 (40248670)
孫 輔卿 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 特任助教 (20625256)
高橋 競 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 特任研究員 (60719326)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フレイル / アクションリサーチ / 老年学 / 高齢者 / 地域 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、フレイルの可逆性を重視した改善プログラムを開発・実証することで、既にフレイルを有する高齢者を含む全高齢者の健康状態の底上げに資する知見を得ることである。2019年度は、大規模コホート縦断追跡調査(柏スタディ)データを用いて、フレイル状態から改善した高齢対象者の生物学的・精神心理学的・社会学的な特性を探索、改善要因の同定を試みた。その際、学際的な視点を解析や考察に活かすため、多分野の研究従事者らがステアリングコミッティを定期開催し、具体的な解析方法やその後の改善プログラムの素案に関する議論を重ねた。 具体的に、大規模コホート調査(追跡期間、中央値6年)の時系列データを検討すると、初回調査時にフレイルに該当した147名の内、47%が改善していることが分かった。また、初回調査時にプレフレイル(予備群)であった829名の内、24%は非フレイル(健常)まで改善していた。次に、フレイルから改善した者の身体的、精神・心理的、社会的な特性を探索するため、フレイル改善の経時的変化に関する詳細な分析を行った。結果として、フレイルからの改善には筋力や身体機能の維持が重要であったが、加えて日常的な生活習慣の中での様々な特徴も見出された。具体的には、栄養(食品摂取多様性が豊富)、運動(座位活動時間が少ない)、社会参加(町外への外出)が具体的な改善要因として挙げられた。逆に、口腔機能の低下(オーラルフレイル)や多剤併用は改善を妨げる要因であった。 研究初年度は既存の観察研究データを二次利用することで、地域在住高齢者のフレイルあるいはプレフレイルからの6年間の改善率と、改善要因を同定した。改善要因には慢性既往や不可逆的な要因のみならず、日常的な生活習慣といった可逆的な介入ポイントも明らかにできた。これらの新知見を次年度以降の、より実践的なフレイル改善プログラム開発に活かしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では最終的に、あらゆる自治体で実施可能なフレイル改善プログラムのデファクトスタンダードを構築することを目指している。本研究計画では、初年度(2019年度)から最終年度(2021年度)までの3年間で、(1)フレイル状態から改善した者の生物心理社会的特性や改善機序を詳細に明らかにし、(2)研究からの知見と学際的議論を通して幅広い対象に実施可能なフレイル改善プログラムを開発、(3)そのプログラムの効果や妥当性を多角的に検証した上で地域活動に導入する予定である。 研究初年度である本年度の計画では、既存の大規模コホートデータを二次利用し、フレイルが改善した研究対象高齢者の生物心理社会的特性とフレイル改善の機序を明らかにすることを大きな達成目標に掲げていた。結果として、地域在住高齢者のフレイルあるいはプレフレイルからの6年間の改善率と、改善要因を同定した。改善要因としては慢性既往や不可逆的な要因のみならず、日常的な生活習慣といった可逆的な介入ポイントも明らかにした。同時に、フレイル改善に関する介入研究の系統的レビューを実施したことで、改善プログラムに必要な構成要素を抽出できた。これらの新知見の活かし方も含めて、多分野の研究従事者らがステアリングコミッティを定期開催したことで、フレイル改善プログラムのプロトタイプの議論も重ねることができた。以上より、本研究計画は概ね順調に進展しており、来年度以降の更なる発展につなげていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は以下2つの活動を実施する予定である。
(1)フレイル改善者の身体、精神・心理、社会的特性の探索とその機序解明: 2019年度は大規模コホート調査の既存データを用い、フレイルからの改善率やその要因を同定してきた。2020年度以降は既存データ分析から得た結果を基盤とし、大規模コホート研究の追跡調査を実施する。特に、栄養・運動・社会参加の実施を詳細に調査し、フレイル改善に資する栄養・運動・社会参加の特性と、フレイル改善の中核となる身体的、精神・心理的、社会的な特性と影響を特定、その機序を明らかにする。同時に、フレイル改善に関する介入研究の系統的レビューを実施し、改善プログラムに必要な構成要素を抽出していく。
(2)幅広い対象者に実施可能なフレイル改善プログラムの開発:(1)の大規模コホートデータベースの解析により詳細な改善機序の解明と先行文献のレビューを学際的議論を深めて進めながら、フレイル改善プログラムのプロトタイプを作成する。具体的には、フレイル改善に寄与する特定の身体的、精神・心理的、社会的な特性に対する改善手法を本研究に関わる各専門家が提案する。身体的なアプローチ(例:栄養、口腔、運動機能の改善案)は老年医学、リハビリ学、整形外科学の専門家、精神・心理的なアプローチ(例:ピアカウンセリング等)は老年医学、社会心理学、老年学の専門家、社会的なアプローチ(例:外出および交流支援等)は保健学、社会心理学、老年学の専門家が提案する。提案されたアプローチを整理統合し、包括的なフレイル改善手法を開発する。現時点では、栄養(食品摂取多様性が豊富)、運動(座位活動時間が少ない)、社会参加(町外への外出)や口腔機能向上のポイントをまとめたリーフレット作成、フォーカス・グループ・ディスカッションの実施、電話や特殊デバイス等によるフォローアップ等の手法の組み合わせをイメージしている。
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