インジウム曝露による肺障害(間質性肺炎)は、2007年にわが国から発信された新しい職業性肺疾患である。インジウムの肺毒性は、健康な28歳男性の死亡例や動物実験の肺発がん性から、その影響はきわめて強いことが示唆され、2013年にインジウム作業者の健康影響防止のため、インジウムは特定化学物質第2類物質/特別管理物質に指定され、作業環境管理・作業管理・健康管理(特殊健康診断)が事業主の義務となった。我々は、2003年からコホート研究を開始し、知るところ、人の肺発がん性の知見はなく、肺発がん性があるのか。という疑問の解明は、産業医学の貴重で重大な課題の1つである。インジウム疫学調査開始から15年以上経過した今、潜伏期間を踏まえ、胸部HRCTを含む肺影響の詳細健康調査を行った。 本研究の目的は、インジウム作業者の世界唯一の規模最大の維持フィールドで、肺発がん性を念頭においた肺への慢性影響を検討することである。 令和元年度は2工場(85名)に、令和2-3年度は3工場(43名)に肺機能検査、胸部HRCTを含む詳細健康調査を行い、肺がんの罹患者はなかった。 令和3-4年度は6工場(177名)に詳細健康調査を行い、がん罹患者は2名だった。胸部HRCTにて肺がんを指摘された1名(令和4年の血清インジウム濃度:In-S 0.3 μg/L、最高In-S 2.4 μg/L)は、病院での精査で腎がんの合併も認めた。 胸部HRCTにて指摘された別の腎がん罹患者1名は、これまですべてのIn-Sは定量下限濃度(<0.1μg/L)、血清KL-6もすべて正常範囲で、かつ腎のインジウム濃度も定量下限濃度 (<1ng/g)のため、インジウムと関連しない腎がんと考えた。最終年度に肺がんおよび腎がん罹患者を認め、インジウム曝露と遅発性肺影響との関連は明らかでないが、さらなる追跡調査を行い、検討することが重要と考える。
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