研究課題
看護班による経過観察(オープンコホート)は、38名が対象(死亡3、脱落2、生存33)で、計91例となった。本年度の生存対象者は、罹病期間平均11.3年、人工呼吸期間平均7.27年、5年以上の者16名(48.4%)であった。これまで報告した非運動症状に加え、認知機能障害の疑いは8名にみられ、ステージ進行による評価不能者が7名であった。さらに、呼吸器装着者におけるワイヤレス生体センサー RF-ECGによる自律神経測定を継続した。脳機能班では、当初月1回程度の頻度でステージ進行期のALS患者を対象としたBMI機器の適応について試用を行う予定であったが、COVID-19による移動制限などにより、年5回程度の実施に留まった。その結果、試用の間が開くことによる大幅な精度の低下は見られず、機器の操作方法を一旦習得すると長期使用が可能となることが示唆された。臨床神経班のうち、脳画像では萎縮推移の検討を継続し、Stage Vに至った例の視床下部の萎縮は、経過の早い時期に前部から見られ、視床下部後部に進行することを見出し、視床下部の萎縮は、将来Stage V (重症例)となる指標になりうることが示唆された。神経生理では、N20に重畳する高周波振動(HFO)がALSでどう変化するかを検討した。その結果、ALSではHFOも振幅が増大するが、生命予後とは関連がないことが判明した。HFOの振幅増大は、一次感覚野の錐体細胞の興奮性増大に伴う代償性変化である可能性が高いことが示唆された。病理班では、ALS剖検例を3例実施と網羅的なTDP-43免疫染色を行った。SOD1変異型家族性ALS剖検例4例を対象に、免疫組織化学的にSOD1陽性封入体の蓄積を検討したところ、長期生存例においては封入体蓄積が殆ど認められないことを見出し、SOD1の蓄積量が臨床経過に影響している可能性が示唆された。
3: やや遅れている
COVID-19 による移動制限や対象の状態変化により、訪問調査を延期せざるを得ず、生体信号を用いた機器の操作試用や心拍変動測定について、一定の測定間隔を保つことができなかった。だが、試用間隔が空くことによる大幅な精度の低下は見られず、機器の操作方法を一旦習得すると長期使用が可能となることが示唆された。自律神経系の指標として,心拍変動の最大エントロピー原理による周波数解析を行い,病初期のALS患者の自律神経異常があるかどうかを検討する予定であったが、機材準備が完了したところまでであった。病初期(進行期)の対象における測定が遅れているが、外来通院者への測定開始準備は整っており、感染状況を見極めながら測定場所を工夫することで測定を開始する。そのほかの研究計画については、概ね予定通り実施している。
最終年度を迎えるにあたり、以下の4点を重点課題として進める。1.非運動症状のうち認知機能障害・性格変化の検討:非運動症状のうち、ケアにおいて困難をきたす認知機能障害、性格変化等の症状についての検討を深める。しかし、経過観察より、画像での脳萎縮の指摘と症状の出現は必ずしも一致していないこと、また意思伝達ステージ進行による評価不能が7例存在しており、評価方法の確立が課題であるといえる。そこで、まず、気管切開人工呼吸後の経過観察に限らず、発症からの経過を含めて、症状収集を進め、経験を共有し、対策を検討を目指す。2.生体信号を用いた意思伝達の生活の中での実用化:開発中のB-assistについての在宅環境下における試用の継続により、日常使用につながるよう工夫を進める。3.心拍変動による自律神経測定:病初期(外来通院時期)における測定プロトコルを確立させ、いつから自律神経機能の低下がはじまるのかの基礎データを収集する。また、生体信号を用いた意思伝達装置の試用における併用では、集中とリラックスのタスクの実施を確実に同期させて測定ができるような工夫を行い、LF・HF成分の変化と回答との関係を視覚化できるように試みる。4.看護・臨床・病理データベース:臨床神経班による検索は、対象部位を拡げつつ継続する。病理学的検討では、神経脱落の程度および、神経細胞質封入体(NCI)、グリア細胞体内封入体(GCI)の有無等、比較検討すべき項目の決定と、臨床経過(緩徐、急速)別の比較を行うことにより、データベースの構築を進める。看護班では、1に掲げた非運動症状とその対応についてを紹介するページの作成を進める。以上を通じ、ALSの全経過および、既存の概念を覆す病態解明に近づくべく、研究を推進する。
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