研究課題/領域番号 |
19H03974
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
梁 楠 京都大学, 医学研究科, 准教授 (70512515)
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研究分担者 |
高橋 真 広島大学, 医系科学研究科(保), 教授 (50435690)
伊藤 明良 京都大学, 医学研究科, 助教 (50762134)
青山 朋樹 京都大学, 医学研究科, 教授 (90378886)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 反復経頭蓋磁気刺激法 / 二連発磁気刺激法 / 中枢神経系 / リハビリテーション |
研究実績の概要 |
今年度は,実験動物(ラット)と健常者を対象に実験を行った. ラットを用いた実験では,大脳皮質運動野(M1)に反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)を行うことによって,心拍数や血圧の循環応答を確認すると同時に,大脳皮質レベルあるいは脊髄レベルの興奮性変化について検討した.ラット麻酔下(イソフルラン吸口麻酔導入5%,維持1-2%;三種混合麻酔薬ドミトール+ドルミカム+ベトルファール, 投与量0.01ml/g),単発磁気刺激を用いてラットの上腕二頭筋を支配するM1領域を同定した後,シーターバースト法(TBS)を用いて刺激を行った.針筋電図を用いて上腕二頭筋の筋活動を導出し,TMSによる運動誘発電位(MEP)および末梢神経刺激よるH波を導出した.その結果,Intermittent TBSでは大脳皮質運動野の興奮性を向上させると同時に,脊髄の興奮性を低下させる傾向にあった.一方,Continuous TBSは大脳皮質運動野の興奮性を低下させると同時に,脊髄の興奮性を向上させる傾向があり,iTBSとcTBSでは逆の効果がみられた. ヒトを対象とした実験では,末梢神経損傷のリハビリでも効果の確認でよく用いられている力発揮課題に注目した.運動療法の効果,あるいはTMS介入効果を確認するために,最大随意筋収縮課題以外に,ある特定の力レベルを正確に発揮することが重要であり,それにはM1に加えて前頭前野の活動も重要ではないかと仮説を立てて実験を行った.運動野における単発試験刺激,あるいは背外側前頭前野(DLPFC)における条件刺激を加えた二連発磁気刺激法を用いて,最大握力の20~80%の力発揮課題の準備段階および遂行直前における皮質脊髄路の興奮性およびDLPFCからM1への半球間抑制について調べた.その結果,どちらのタイミングにおいても皮質脊髄路興奮性の向上がみられ,また半球間抑制の脱抑制がみられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,rTMSの従来プロトコル(0.5~10 Hz)に加え,シーターバースト法におけるiTBSとcTBSの効果について確認することができた.動物実験においては,M1,脊髄,末梢筋・神経に対するrTMSの効果について検討し,刺激部位の同定,再現性,及び刺激の安全性について確認できた.M1に対するrTMSの介入効果についてはまだ例数が少なく増やす必要があると同時に,大脳皮質レベルの刺激ではなく脊髄レベルの刺激における末梢神経活動の興奮性あるいは大脳皮質の興奮性がどういう風に変わっているかについて確認する必要がある.ヒトを対象とした実験においては,rTMSの効果を確認すると同時に,M1以外に随意運動の力発揮量・発揮精度・発揮方向に寄与すると思われる脳部位について同定し,それらの部位へrTMSを介入することによる中枢神経系(脳と脊髄)の興奮性変化,あるいは末梢神経系の興奮性変化を明らかにしていく.特に運動関連領域あるいは前頭前野,下前頭回,頭頂連合野などいくつかの脳部位に焦点を当て,それらの介入による神経細胞レベル,行動学的レベルにおける違いを明らかにしていく.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までは,動物実験において大脳皮質へのrTMSがM1および脊髄の興奮性への影響,心拍数や血圧などの循環応答について調べると同時に,末梢神経損傷モデルに対する中枢・末梢への刺激介入結果を示してきた.今後はまず末梢神経損傷モデルの再検討を行い,様々なモデルにおいて同様の結果が得られるかどうかについて検討する.一方,ヒトを対象とした実験ではrTMSについてパラメーターを十分調整したうえで,大脳皮質あるいは脊髄,あるいは脳幹部などの刺激部位について検討し,特に大脳皮質においてはM1に加え運動前野や補足運動野,前頭前野,下前頭回,頭頂連合野など特定の脳部位に焦点をあてる.rTMSの方法としては従来の刺激法と併用してシーターバースト法を駆使し,そのメリットとデメリットについて検討しながら進めていく. さらに,上記の動物ならびに健常者を対象とした実験結果を踏まえたうえで,末梢神経損傷患者における介入プロトコルについても検討しており,症例数を増やしつつ,rTMSによる中枢神経系,末梢神経系の興奮性変化を明らかにすると同時に,身体・精神症状の改善あるいは日常生活動作の改善の有無について明らかにしていく予定である.
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