研究課題/領域番号 |
19H03976
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野崎 一徳 大阪大学, 歯学部附属病院, 准教授 (40379110)
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研究分担者 |
野原 幹司 大阪大学, 歯学研究科, 准教授 (20346167)
坂本 尚久 神戸大学, システム情報学研究科, 准教授 (20402745)
吉永 司 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50824190)
和田 成生 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (70240546)
山田 朋美 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (70452448)
笹井 正思 大阪大学, 歯学部附属病院, 助教 (90283796)
阪井 丘芳 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (90379082)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 医療情報 / 構音 / 深層学習 / 空力音 / 統計的形状 / 自己教師あり学習 / 舌癌 / 口唇口蓋裂 |
研究実績の概要 |
非侵襲的に小児から老人まで構音時の気道形状を観察し、計測することは、構音障害を同定する際に有効であろうと考えられる。そこで本年度は、超音波画像撮影装置を導入した。所属機関倫理審査を受けたのち、複数人の健常人に対して構音時の気道形状の変化を観察した。さらに、舌癌既往患者の構音時の気道の観察を行った。 構音障害の要因を明らかにするため、構音時の舌運動に関する研究を行った。歯科において最も問題となる音素である[s]音に関して、昨年度の物理実験では母音との調音結合に要する時間に関わらず、一定の時間[s]音が発生し続ける現象が明らかとなったが、本年度では圧縮性のナビエ・ストークス方程式を用いた数値解析によって、調音結合時の気道内での流れと、そこから生じる音源成分、そして伝播する圧力波を導出し、遠方場での音のスペクトル特性がよく一致することを確認した。さらに[s]音を含む調音結合では上顎中切歯口蓋側面において縦渦が生じていることが、可視化された。 舌筋繊維を考慮した有限要素法による舌機能モデルの構築を行った。ヒトにおける舌突出を実現するために、初期条件に重力を与えることで、前方への舌突出再現性が向上することを確かめた。 口唇口蓋裂や舌癌既往の患者に関しては、自らの声質で会話を成立させたいという願望があり、ボイスコマンド等の音声認識の利活用への期待が大きい。3名の患者にATR503文を朗読してもらい、その音声を用いて、ニューラルネットワークを用いた自己教師あり学習を行った。その結果、患者の音声特性を反映した音声認識の実現可能性に関して有効性が確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
実患者の音声データの授受がコロナ禍において、手渡しすることが困難となった。しかし、オンラインでの授受は倫理審査により承認されていなかったため、時期を調整する必要が生じた。 超音波画像診断装置のエコー画像と音声の計測開始時刻の同期が取れず、新たに装置を加えることで、同期した計測を可能にしたが、実際の実験計画に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
疾患による口腔領域及びその周囲の器質的な変化によって生じる構音障害に関する物理的理解をすすめる。そのために超音波診断装置(エコー)により構音時の3次元的な口腔形状を観察する。舌癌等で舌体の一部を切除した場合に生じる構音機能への影響を理解するには、舌の形状変化のメカニズムの解明が不可欠である。これまでに、MR画像と拡散テンソル画像から舌筋繊維配向を抽出し、舌形状変形の逆解析を行ってきた。本年度からエコー情報を活用し機械工学的の両面からアプローチする予定である。 舌癌や口唇口蓋裂患者の構音リハビリテーションのために標準的なコーパスを用い、録音した音声情報を用いて、音声の機械学習にである自己教師あり学習を行い、音声認識精度の向上を目指す。さらに音声以外の情報を学習に用いることにより、さらなる精度の向上に取り組む。 構音時の時系列3次元声道形状データを用いて数値解析を行い、鼻咽腔閉鎖不全による構音障害が生じるメカニズムを解明する。これにより、口唇口蓋裂患者の成長発育段階における外科的手術における新たな指標の一つを提案する予定である。さらに、上顎床義歯患者における[s]音構音に関して、上顎前歯の唇舌側傾斜による特性変化を明らかにし、審美的、咀嚼機能に加えて、構音機能の観点から最適な傾斜角度を算出する手法を提案する。これらの取り組みにより、構音障害が生じるメカニズムを理解した医療の実現に向け,構音障害の因果関係に関して,物理法則と医療情報との関係を推定する。 構音障害を再現する構音シミュレーターを構築し、物理的要因を持つ構音障害について医療情報を計測情報とみなすことで,そこに潜む障害の病理を導出し,医療情報を媒体として基礎(研究)と臨床(リハビリテーション)が融合した医療を提供することにつなげる。
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