研究課題
【背景】経頭蓋静磁場刺激(transcranial static magnetic stimulation; tSMS)は,反復経頭蓋磁気刺激や,電流刺激に次ぐ新たなる非侵襲的脳刺激方法として関心を集めている.我々はこれまでにtSMSにより感覚誘発電位(Kirimoto et al, 2014, 2016)及び侵害受容誘発電位(Kirimoto et al, 2018)の振幅が低下することを報告してきた.本研究ではtSMSが健常者の視空間認知機能に及ぼす影響について検討することを目的とした.【方法】健常成人被験者13名を対象に、右頭頂後頭連合野(P4)または右側頭葉(C6)に対するtSMS,及び疑似刺激を20分間,別日にランダムな順序で行った.視覚刺激として,対称または非対称に分割された線分を,被験者の50 cm前方に設置したPCモニタ上に150 msec提示した.被験者は提示された刺激の消失後,「左(が長い)」「同じ」「右」と口頭で判別した.左が長い線分を「同じ」,または対称な線分を「右」と答えた場合はプラス,反対の場合はマイナスポイントを加算し,総点がプラスを左偏位,マイナスを右偏位と定義した.【結果】介入前のスコアは左偏位5名,右偏位8名であった.両群共にC6に対するtSMS終了直後に0ポイントに収束する,つまり左右の偏位が減少した.P4刺激と疑似刺激ではスコアに変化がなかった.【考察】タキストスコープによる線分分割課題では健常者は左偏位を示すとの報告が多いが,本研究では右偏位例が少なからず観察された.本結果を半側空間無視症状の改善に応用するために,側頭葉に対する静磁場刺激により視空間認知機能が変化する機序について詳細な検討を行う必要がある.【結論】右側頭葉に対するtSMSはタキストスコープによる線分分割課題の精度を改善する事が示唆された.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,健常被験者を対象とし,従来型の脳刺激法と比較して経済性,安全性,操作性において圧倒的に優れたtSMSの介入効果の安定性,及び刺激部位と関連のある領野との相互結合性(コネクティビティ)の変化の特性を明らかにすることを目的とする.その結果,『tSMSは従来の非侵襲的脳刺激法を上回る進歩的ツールとなり得るのか?』という学術的問いに対して明解な答えを導くことを目標に掲げている.初年度は,当初の目標通りに,健常被験者を対象とした側頭葉領域に対する静磁場刺激は,健常者に多く見られる右空間無視傾向を改善することを明らかにした.
1.補足運動野に対するtSMSが先行随伴性姿勢調節に及ぼす影響補足運動野の姿勢調節機能に介入する.上肢の急速挙上時に,その主動作筋(三角筋)に先行して大腿二頭筋が放電し,股関節伸展位を保持することで重心の前方移動を抑制する.主動作筋と姿勢調節筋の潜時差によってフィードフォワード機能の変化を検証する.申請者らは若年者の補足運動野に陰極tDCSを行うと,この機能が減弱し,高齢者への陽極tDCSでは改善することを報告してきた.同様な効果の有無を検証する2.tSMSがIHIに及ぼす影響M1間のIHIの変化 健常成人被験者各50名を対象とする.tSMS実施前安静時をコントロール条件とし,15分間のtSMS終了直後,終了15分後にTMSを行い,MEPを第一背側骨間筋より記録する.右M1への試験TMSにより左第一背側骨間筋から誘発されるMEP振幅は,5-6 ms先行して左M1に条件TMSが加えられた場合,脳梁を介したIHIにより減少する.この単発,及び2連発TMSをランダムな順序で15回ずつ実施し,計30回分のMEPを記録する.
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Brain Topography
巻: 32(3) ページ: 435-444
doi: 10.1007/s10548-018-0687-y
Neurosci Lett.
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doi: 10.1016/j.neulet.2020.134863.