研究課題/領域番号 |
19H03984
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
海老原 覚 東邦大学, 医学部, 教授 (90323013)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メンソール / 呼吸困難 |
研究実績の概要 |
本年度は慢性呼吸器疾患患者のメンソール嗅覚刺激が呼吸困難減少に関わる機序の解明を行った。呼吸困難の発生機序の一つとして、大脳皮質で感受する延髄から発する換気運動ドライブ(呼吸デマンド)に対して、実際の換気量を大脳皮質で感受したものの間に差が生じたときに呼吸困難が発生するという考え方ある。メンソールは従って、換気を感知する末梢感覚の修飾が呼吸困難を改善する可能性があると考えられるが、これまでそのことは十分には検討されてこなかった。メンソールは気道の気流センサーの一つであると考えられているTRPM8受容体のアゴニストである。したがってメンソール嗅覚刺激が、気流センサーを活性化して、実際の換気よりも多くの換気をしていると大脳皮質に錯覚を与える可能性があり、このことをCOPD患者における呼吸困難に対して検証した。32名のCOPD患者に吸気抵抗負荷を加えると同時に、メンソール嗅覚刺激またはストロベリー嗅覚刺激あるいは匂い無し(シャム)刺激を行ったところ、呼吸抵抗負荷による吸気気流知覚の減少がメンソール刺激においてもっともよく抑えられた。気流知覚の減少が大きいほど呼吸困難感が大きく抑えられる結果となった。このことより、メンソール嗅覚刺激は気流感覚の減少を補正することによって、呼吸困難感を是正していることが解ったのである。同時に特発性肺線維症の運動耐容能力決定に因子としての呼吸困難の役割についても解析した。すると6分間歩行距離は平常時の呼吸困難感との強い関係があることとその要因に大胸筋筋量が関係していることがわかった。このことより、特発性肺線維症の呼吸困難低減のための呼吸リハビリテーションにおいては大胸筋をターゲットとすることが方策の一つである可能性が示唆された。このことを発展させ、嗅覚刺激(アロマセラピー)を利用した高齢者の包括的介入についての系統的な評論を行い、方向性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
呼吸困難モジュレーションの方策がメカニズムとともに次々と見出されてきており、エビデンスなども着々と増えつつある。また、系統的なレビューも進行しており、研究進捗状況は極めて良好といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においてはこの呼吸困難モジュレーションの方法を理学療法士がどのようなプロトコールで介入を行うといいかを検討していく。さらに様々な呼吸困難モジュレーションの方法の開発も行っていく。呼吸リハビリテーションの効果は外来でのリハビリテーションプログラムの終了後もしばらく持続されてはいるが、それも時間とともに低下していくことがわかっている。そこで重要なのは、病院で教わった呼吸リハビリテーションの運動内容や生活習慣改善を含むリハビリテーションプログラムを続けて頂くことである。現在、全世界で慢性呼吸器疾患患者が運動療法を続けるための様々な試みがなされているが、それぞれ限界があるようである。今後は在宅で継続的に呼吸リハビリテーションを生涯行うための仕組みづくりが大事と思われそれに取り組む。 嗅覚刺激にはこれ以外にも、歩行訓練時のバランス改善効果や、作業療法時の血圧上昇抑制効果など、リハビリテーションの場面で様々なよい効果を持っていることを我々は見出してきた。嗅覚刺激を上手に組み合わせることにより、理想的なリハビリテーション医療が可能になると思われ、包括的リハビリテーションにおいて匂い刺激に関する専門職をどう取り入れていくかの検討も、今後の研究の方向性のひとつである。
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