研究実績の概要 |
本年度は呼吸感覚の主である呼吸困難を正しく評価するための本邦におけるツールの開発をおこなった。本研究は、言語的に妥当な多次元呼吸困難プロファイル(MDP)の日本語訳を開発し、安定した外来慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、運動中の呼吸困難の感覚・感情領域の悪化が身体活動に対して有害な影響を与えるかどうかを評価することを目的とした。そこで、MDPの日本語版は、開発者の承認を得て、Mapi Research Trust(フランス・リヨン)と共同で作成した。身体活動量は3軸加速度計を用いて評価した。労作時の呼吸困難は3分間ステップテストにより調査した。その結果、MDPの日本語版を開発し、言語的な妥当性を確認した。空腹感は歩行による総カロリーと有意に相関し(r=-0.47, p<0.05)、不安とうつは身体活動量および強度と有意に相関した(それぞれ r=-0.49, p<0.05, r=-0.46, p<0.05,)。以上のことより、日本版MDPは、COPD患者の肺機能、運動時の換気反応、身体活動の強度と量の両方を反映することが示唆された。 さらにメンソールによる呼吸困難緩和の機序について解明した。l-mentholの息切れ緩和のメカニズムや効果について、システマック概観をおこなった結果、COPD患者におけるl-メントールの息切れ緩和効果を評価した無作為化比較試験は1件であることが確認された。息切れ緩和のメカニズムには、l-メントールの冷却感による三叉神経への刺激が一部関与しており、吸気流知覚の認知的錯覚を与えることが報告されている。労作による息切れに対するl-mentholの効果は、息切れ患者においてはまだ報告されていない。以上のことよりCOPD患者における実験室誘発の息苦しさの感覚・情動的側面に対するl-mentholの効果は、臨床試験で報告されたものである。
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