スポーツで優れたパフォーマンスを発揮するためには,身体能力(筋力や持久力:末梢機能)に加え,情報処理能力(情報収集,予測,運動命令の企画・修正:中枢機能)の発達が不可欠となる.特に,厳しい時間制約と高い不確実性を含むスポーツでは,「予測能力」を高度に発達させることが重要である. 本事業では,予測能力を最適に評価する課題を開発し,大量データを取得した上で,予測能力の診断基準を作成し,予測の量的発達 (予測精度の向上) と質的発達 (メカニズムの変化) の関係を明らかにし,予測の診断・処方システムの開発につなげることを目的としている. 昨年度までの成果として,野球の打者はリリース後のボール軌道情報に基づいて,ストライク・ボールの知覚弁別をどの程度早期に完了できるかが打撃成績と強く関連していることが明らかとなった.心理物理実験では,この時間的な知覚弁別閾値を推定する方法として,恒常法や階段法が用いられる.前者はより正確に弁別閾を推定できるが測定には多くの試行数を要する.これに対し,階段法は格段に測定試行数を減じることができる.そこで本年度は,大規模データ収集を容易にする階段法による予測弁別閾の推定の有用性について検討した. 結果として,恒常法と階段法で推定した閾値には有意な相関が認められた.特に,3回連続の成功と1回の失敗というルールに従って閾値を測定した場合に,恒常法と強い関連が見られた.また,階段法で推定した閾値でも野球のシーズン打撃成績を予測できることが示された.一方で,恒常法に比べると相関のあるパフォーマンス変数の数は少なかった.測定試行回数に関しては,恒常法に比べ階段法では1/3程度減じられることから,大量データの取得においては有益な予測弁別閾の評価方法になり得ることが示唆された.
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