研究課題/領域番号 |
19H04004
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
齋田 良知 順天堂大学, 医学部, 特任教授 (00534885)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多血小板血漿 / スポーツ外傷 / 変形性関節症 / 成長因子 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
運動器疾患に対する新規低侵襲治療として多血小板血漿(PRP)療法が注目されている。当治療を受ける患者の年齢層は二峰性で、20~30代のスポーツ外傷(アスリート)患者と60~70代の変形性膝関節症患者である。PRPは患者の自己血から調製して患部に投与するが、治療に使用するPRPは自己由来であるためPRP中に含まれる生理活性物質(bioactive substance以下BS)は患者ごとに異なり、PRP療法の効果に関連すると考えられる。そのため、我々は患者血中に含まれる細胞種やBSがPRP療法の効果に影響を及ぼすかを明らかにするために種々の検討を行っている。 まず、末梢血とPRP中に含まれる細胞種やBSを、当院でPRP療法を行ったスポーツ選手29名(A群:平均29.8歳、男18女11名)と、同時期に治療した中高年患者29名(B群:64.6歳、男11女18名)で比較した。全血中、PRP中の血小板数、白血球数、PRP中細胞濃縮率は両群間及び男女間に差はなかった。BSのうちTNFα、IL-6、sTNFRⅡはA群よりB群で高値であったが、PDGF-BB、IGF1はA群で高値であった。BSの濃縮率(PRP/全血比)に群間差は認めなかった。この検討では、PRP中に含まれるBSは患者ごとに異なり、スポーツ選手と中高年者でも異なることを明らかにした。このほか、BSの違いが治療効果に及ぼす影響、およびBSを経時的に繰り返し測定し、治療によってBSに変化が生じるかなどを検討している。また、患者の血小板活性がPRP療法の効果に関連するとの予測から、血小板の骨髄での造血機能を反応すると考えられている幼若血小板分画を測定し、これが治療効果に関連しているかどうかの検討も行っている。 これらの研究により、PRP療法の治療効果を左右する因子が同定されれば、より効果的なPRP療法の確立に貢献できるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PRP療法の治療効果を規定する因子の探索として、患者の血液中の血球種および生理活性物質(BS)の測定を行い、以下の1)~3)の検討を行ってきた。 1)スポーツ選手及び中高年者のBSには差があることを既に明らかにし、本年中に学会にて報告予定である。 2)膝関節炎に対しPRP療法を行ったスポーツ選手及び中高年患者のPRP中のBSと治療効果に関連が見られるかどうかの検討を現在進めており、関節炎の病勢を反映する指標の一つである蛋白分解酵素(マトリックスメタロプロテアーゼ〈matrix metalloproteinase;MMP〉)を阻害するtissue inhibitors of metalloproteinase (TIMP) が高い患者でPRPの効果が高い傾向が認められた。この結果をもとにサンプルサイズの再計算を行ったところ、必要サンプルサイズはN=42であったため、症例登録の追加を行い現在解析中である。本年度は、成果報告の学会発表および論文投稿を行う予定である。 3)血小板中にRNAが豊富に含まれる血小板である幼若血小板の分画(immature platelet fraction, IPF)は、蛍光色素で核酸を染色しフローサイトメトリー法にて測定可能であり、血小板の活性に関与すると考えられている。これを膝関節炎に対してPRP療法を行う患者で測定したところ、IPF分画が高い患者で奏効率が高かったことから、新規のPRP療法効果規定因子として論文投稿予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、上述のデータ解析の継続と論文執筆・投稿を行う。 効果を規定する因子としては幼若血小板や患者血液中のBSが挙げられるが、中高年者のPRP療法奏効率が約60%であるのに対して、スポーツ選手におけるPRP療法の奏効率が予想以上に高く(80%以上)、スポーツ選手における効果規定因子の同定が困難となる可能性が考えられる。その場合は、スポーツ選手と中高年者のBSや奏効率の違いの比較検討や、スポーツ選手に対するPRP療法によりBSがどのように変化するかを検討し報告することで、当研究の目的を達成しPRP療法の発展に寄与できるものと考えている。
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