研究課題
本研究の目的は,拡散相関分光法(DCS)による血流計測を開発・改良することで,従来法では検討することが困難であった,運動開始時の活動筋組織における迅速な血流反応とそのメカニズムおよび運動トレーニングの影響を明らかにすることである。本年度では,運動開始時の急激な血流変化の測定に対応したDCS血流計を作製し,運動開始時の迅速な活動筋血流反応を定量評価する方法を検討した。新規のDCS血流計は,定常状態の血流量測定を前提とした既存装置を改良することで作製した。具体的には,時間分解能に優れた単一光子測定器の導入および計測プログラムの改良により,DCS血流計の光子計測周波数を向上するとともに,送光プローブの改良により受光組織領域を拡大した。新規のDCS血流計を用いることで,迅速な活動筋血流反応をより詳細に検討することが可能となった。運動開始直後の血流応答に焦点を当てるために,単回の筋収縮に対する活動筋血流反応をDCS血流計により測定した。単回の筋収縮の様式は,最も多くの先行研究で用いられている1秒間の静的掌握運動とし,主動筋である浅指屈筋においてDCS血流計測を行った。被験者(健康な若年成人男性15名)は最大随意筋力の20%,40%,60%,80%での単回掌握運動を行った。筋血流増加反応は,初期応答(筋収縮終了後3秒目の値),ピーク値,ピークまでの所要時間,総血流量(筋収縮終了後40秒目までの総和)により定量評価した。単回筋収縮の直後から筋血流量が一過性に急増し,約15秒でピークに至り,その後ベースラインへと回復した。この筋血流増加反応は,運動強度に依存して高まった。これらの結果から,開発したDCS血流計測技術を用いることで,骨格筋の収縮によって誘起される迅速な血流増加反応を定量評価できることが示された。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により,2020年3月に予定していた研究出張を中止せざるを得なかった。しかし,2019年度全体としては,研究計画に大きな変更や問題がなく進めることが出来た。
本研究課題は,2019年度から2021年度までの3年計画を予定している。昨年度には,運動開始時の急激な活動筋血流変化の測定に対応したDCS血流計の作製および,それを用いて運動開始時の迅速な活動筋血流反応を定量評価する方法を確立した。2020年度では,この実験モデルを応用して,運動開始時に活動筋血流量を急上昇させるメカニズムについて,特に,1)活動筋に加わる静水圧の影響と2)代謝性因子に焦点を当てて研究する予定である。しかし,今般の新型コロナウイルス感染症拡大にともない,研究活動が極めて大きく制限されており,2020年度およびそれ以降にどの程度研究を進めることができるのかは見通せない。必要な備品の調達も難しくなっており,当初の予定通りに研究を進めることは不可能と思われる。研究期間の延長申請を考えざるを得ない状況である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Proc. SPIE 11237, Biophotonics in Exercise Science, Sports Medicine, Health Monitoring Technologies, and Wearables
巻: 43863 ページ: 112370R
doi.org/10.1117/12.2545267
巻: 43863 ページ: 112370N
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Physiol Rep
巻: 7 ページ: e14070
10.14814/phy2.14070