4年間に実施した研究は諸事情により必ずしも計画通りには進まなかったものの、想定を大きく上回る範囲への波及効果をもたらす成果をあげることができた。まず、計画された研究について報告する。今年度に新たに39名分のデータを収集し、それまでに収集した41名分データと合わせた計80名分のデータを分析した。投球動作解析を実施した対象者の中から球速を維持しつつ肘関節ストレスが大幅に低下(>10 Nm)した試技の確認された投手(計23名)を選抜し、投球動作の変容をつぶさに分析したところ、肘ストレスの低い投球を行った際には、(i) コッキング期後期の肩甲骨後方傾斜角ならびにprotraction角が大きく、(ii) 順次到達する肩甲骨、上腕、前腕の最大角速度が全て小さく、(iii)最大肘屈曲トルクと最大肩水平内転トルクが小さく、 (iv) リリース時の肩関節内旋角速度と水平内転角速度が共に小さいことが確認された。これらの結果は、投球動作のコッキング期から加速期において上肢セグメントの回転速度を減少させつつも手部速度を維持できるような、回転半径の増大を齎す運動連鎖を行うことによって、肘ストレスの低い投球を実現していたことを示すものである。 想定を上回る波及効果を3つ挙げる。一つは、野球肘の予防策について意見交換した米国プロ野球関係者と協力し、日米プロ野球2球団における障害調査研究を実施したことである。2つ目はバイオフィードバックシステム(携帯端末を活用したIMUシステム)が産学連携研究に発展したことである。もう一つは、投球肘障害を規定する因子として新たに着目すべき変数(投手が有する肘内反筋力の大きさ)を本研究で収集分析したデータから発想を得て提案し、この変数を測定するための新しい方法を開発したことである。この比較分析は各投手の肘障害リスクの評価および障害予防に役立つ研究に発展させる計画である。
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