研究実績の概要 |
2021年度では、代謝―筋―循環―体温機能といった統合生理について、環境温を28℃と19℃に設定し、常温環境下と低温環境下での歩行中の体温調節およびエネルギー代謝に焦点を当てて検討した。被験者は20歳~28歳の健康な成人男性15名であり、測定時はTシャツとハーフパンツ着用であった。歩行の運動では歩速度を時速3km~6kmの間でサイン波状に変化させた。サイン負荷の周期は、それぞれ異なる周期2, 5, 10分の3種類を設定した。測定項目は:①ガス交換(VT, Bf, VE, VO2, VCO2)、②心電図・心拍数(HR)、③筋電図(EMG:前脛骨筋、上腕二頭筋の表面筋電図)③深部体温として耳内温(Tcore)、4点(大腿・下腿・胸部・上腕)の皮膚温からの平均皮膚温(Tsk)を周波数解析によって各パラメータの振幅および位相差を算出した。その結果、TcoreとTskの応答は低温・常温に関わらずサイン波速度変化に対して逆位相を呈し、応答のベースラインは低温環境で低下していた。エネルギー代謝のVO2とVCO2の振幅とベースラインは常温より低温で低下し、同じ仕事をしているにも関わらず、エネルギー代謝量は低温で顕著に低下していた。さらに、VO2とVCO2の位相差は低温環境で顕著に大きく、低温による応答性の遅延が確認された。このように、急性の低温環境に対する適応として、作業動作で起こる対流による熱放散が促進されて作業強度と逆比例する熱放散が強制されている。常温と同じ仕事量を行う場合においても、低温環境による熱放散が加速するためエネルギー代謝量が逆に抑制されるような寒冷適応が起こっている可能性が考えられる。
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