研究課題
生体は部分的な機能障害が原因で個体全体の機能不全に陥ることがないよう種々の情報伝達ネットワークを形成している。加齢により生体は恒常性が維持されている状態から、生理的老化、病的老化を経て老化関連疾患を発症し最終的に死に至る。老化の全体像を俯瞰するためには、このネットワークの変容や破綻を捉えることが不可欠である。本研究では包括的なペプチド利用により生体情報伝達ネットワークの加齢による変容解明を図る。今回、ジペプチドライブラリーを用いて神経系に対する作用を検討した。20種類の標準アミノ酸からなるジペプチドは20×20=400通り存在するため全てのジペプチドを一度にin vivo評価することは困難であり実験群数を減らす必要がある。そこで、N末端およびC末端が共通のジペプチドをプールしたものを作成し、これらを若齢マウスに経口投与し摂食に及ぼす影響を検討したところ、複数のサンプルが摂食調節作用を示す予備的結果が得られた。ジペプチドの構造活性相関情報から新しいグレリン分泌ペプチドを見出し経口路投与により摂食促進作用を示すことを報告した。初年度に実施したジペプチドライブラリーを用いた包括的な検討により加齢による血管機能の質的な変化を解明し、高血圧発症前期では、一酸化窒素(NO)が、後期ではコレシストキニン(CCK)が、主要なメディエーターとして機能することが明らかとなった。今回、高血圧発症後期においてCCK系を活性化する強力な動脈弛緩作用および血圧降下作用を示すペプチドを見出し、これを報告した。
2: おおむね順調に進展している
ジペプチドライブラリーを用いた包括的な検討により摂食調節作用を示すものが存在することが明らかとなった。さらに、複数の生理活性ペプチドを明らかにしている。多様なタイプのペプチドを用いて週齢の異なるマウスの反応性を検討できることから、研究は順調に進んでいるといえる。
今年度は、本結果の再現性を確認するとともにジペプチドプールに含まれるペプチドの中で効果を示すものを特定する。さらに、若齢マウスおよび老齢マウスなど月齢の異なる実験動物を用いて、上記のジペプチドおよび既に見出している摂食調節ペプチドの反応性に違いがあるかを検討する。加齢により反応性が異なるペプチドが明らかになった場合には、作用経路がどのように変化したかを各種阻害剤やRNAiノックダウン、必要に応じてノックアウトマウスなど用いて明らかにする。
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