研究課題
乳酸菌は小腸の主要な常在細菌であり発酵食品などからも日常的に摂取される。我々は乳酸菌の有する免疫賦活ならびに抗炎症機構を明らかにしてきており、小腸共生環境を起点とした免疫制御(感染予防および慢性炎症性疾患に対する予防)に役立てることを目的としている。本年度は樹状細胞(DC)からのインターロイキン(IL)-10産生を促進する乳酸菌について、生理的環境下で抗炎症性T細胞が誘導されることを観察した。IL-10誘導型乳酸菌の経口投与により、腸管粘膜固有層(LP)およびパイエル板(PP)でIL-10+DCおよびIL-10+CD4+ T細胞が増加した。デキストラン硫酸ナトリウム誘導性腸炎モデルにおいて、乳酸菌投与群では体重減少や腸管短縮、炎症性細胞の蓄積が緩和され、その際乳酸菌により誘導された腸管CD4+ T細胞はin vitro試験において炎症型T細胞(Th1/Th17)を抑制した。また、IL-18遺伝子欠損マウス(IL-18KO)では老化により小腸T細胞機能の劣化が顕著に生じるが、IL-10誘導型乳酸菌の経口投与は高週齢IL-18KOにおいて、小腸LPおよびPP中のT細胞の割合、数および機能を回復させた。樹状細胞の賦活化を通じて、T細胞を中心とした免疫応答の場を再構築する抗免疫老化メカニズムが示唆された。ヒト臨床との関連においては、クローン病患者の約80%に小腸病変があり乳酸菌との共生関係の歪みが示唆される。本年度は潰瘍群(n=24)と粘膜治癒群(n=14)について糞便の腸内細菌と小腸の内視鏡所見を比較したところ、潰瘍群はα多様性が有意に低かった。また、糞便の腸内細菌は潰瘍群で粘膜治癒群と比較してFaecalibacterium、Lachnospira、Paraprevotella、Dialister、StreptococcusおよびClostridiumが有意に低値であった。
2: おおむね順調に進展している
我々はインターフェロン(IFN)-βとIL-10に注目して乳酸菌の有する免疫賦活ならびに抗炎症機構を明らかにしてきているが、今年度は小腸DCより産生されるIL-10を介した抗炎症性T細胞の誘導と腸内炎症の抑制効果を明らかとした。また、活性型IL-18はインフラマソーム の活性化により生成され、定常状態における腸管内T細胞機能の維持に重要な働きを有するが、これを欠損するIL-18KOマウスの小腸内T細胞の機能低下を、IL-10高産生誘導型の乳酸菌が単独で是正する効果は大きな発見であった。DCからIFN-βとIL-10の両者の産生を強く誘導する発酵食品由来の乳酸菌の同定も進んでおり、小腸由来の同様の乳酸菌株との比較試験についても試験系を構築している。
本年度見出した、乳酸菌が小腸T細胞機能の老化を抑制しうるとの知見は、高齢者の免疫機能を維持するための効果的なソルーションに結びつく可能性があり、そのメカニズムについて精査していく。また糞便中のFaecalibacteriumとClostridiumはクローン病患者で低下していることが報告されており、本年度我々の研究から得られた知見と合致する。小腸における炎症と腸内細菌、大腸における炎症と腸内細菌、これらの関係性を明らかにするためには腸管免疫細胞の働きを理解する必要があり、ヒト由来試料ならびにノトバイオートマウスのシステムを活用して精査していく。名古屋大学病院で内視鏡を用いて採取された小腸内容物サンプルを活用し、乳酸菌の分離、培養、解析を行うにあたっては、研究代表者が日本大学医学部病態病理学系微生物学分野(粘膜免疫・共生微生物学)に免疫研究の活動拠点を移したことにより、疾病あるいは病態モデルに則した乳酸菌の微生物学的な解析を加速させていく。一方で、健常人からの小腸微生物サンプルも蓄積し、それらを用いたノトバイオートマウスを作成する上では、免疫細胞機能、とくに小腸樹状細胞の機能とT 細胞機能分化について精査するとともに、小腸共生環境に働きかける食薬(プレバイオティクスなど)を評価するシステムを構築していく。
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