研究課題/領域番号 |
19H04044
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
遠藤 昌吾 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究部長 (60192514)
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研究分担者 |
柳井 修一 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (60469070)
新崎 智子 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 技術員 (90645855)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | cAMP / フレイル / 記憶 / 握力 / ホスホジエステラーぜ / シロスタゾール |
研究実績の概要 |
フレイル(Frailty、虚弱)は、高齢者が「運動不足、低栄養、疾病などのストレスへの抵抗力が減少し(予備能力低下)、要介護に陥りやすい状態」である。しかし、フレイルは疾病ではないこと、そして、フレイルの動物モデルが存在しないため、その発生機序の研究や予防と改善についての研究は緒についたばかりである。本研究では、ヒトにおいて加齢依存的に機能低下するcAMP系とERK1/2 (Extracellular signal-Regulated Kinase 1/2)系を、認知的(精神・心理的)フレイルの要因と考えて、この加齢変化を模倣したフレイルモデル動物を確立する。このモデルを用いて認知的フレイルの分子機構を解明し、バイオマーカーによる早期発見そして介入による予防と克服をめざす。 本年度は以下の研究結果を得た; 1)3カ月齢から22カ月齢のマウスを行動テストバッテリーを用いて、フレイルの指標となる様々な行動を解析した。握力など高次の脳機能を必要としない行動は早期に障害されたが、記憶などの高次脳機能を必要とする行動は比較的保持されゆっくりと障害されることを明らかにした。 2)cAMP系の機能が減弱したモデルとしてcAMP系の転写因子ICER過剰発現マウスを用いて、cAMP系を強化する薬物、ホスホジエステラーゼ3阻害剤(シロスタゾール)による改善効果を解析した。記憶課題である恐怖条件付けにおいて、野生型マウスと比較してICER過剰発現マウスでは記憶の障害が観察された。シロスタゾールを1ヶ月間投与したマウスでは、無投与マウスと比較して音依存性の恐怖記憶が有意に改善されていた。このことは、cAMP系の障害が認知的フレイルを引き起こす可能性とcAMP系亢進による。フレイル改善への大きなヒントとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの行動の加齢変化の結果が得られ、どの時点でフレイル関連の症状が現れるのかを明らかにすることができた。この結果は、マウスをフレイルモデルとして用いる時に、どの月齢が早期あるいは後期なのかを判断して様々な介入を行うための大きな基盤である。また、cAMP系障害マウスにおける記憶障害がcAMP系亢進により障害が改善されたことは今後研究を進めるうえで大きな収穫である。
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今後の研究の推進方策 |
ERK1/2のノックダウンモデル等の作出、その特徴付けを行い。フレイルモデルとしての評価をおこなう。さらに、ERK1/2系を強化する食品成分等を投与する条件等を明らかにする。また、フレイルの血中バイオマーカー探索はヒトへ発展させるために重要である。月齢依存的に障害されるマウスの行動に伴いどのような血中成分が変化するのかという予備的な検討を行う。また、PDE3阻害剤がICER過剰発現マウスの恐怖記憶を改善させることは、認知的フレイルが観察されるマウスの認知的フレイル改善効果のヒントになる。
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