研究課題/領域番号 |
19H04046
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山口 良文 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (10447443)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 冬眠 / 骨格筋 / シリアンハムスター |
研究実績の概要 |
哺乳類の冬眠は、全身性の能動的な代謝抑制により低温・乾燥・飢餓といった極限環境下での長期生存を可能とする生存戦略である。ヒトやマウスなど多くの哺乳類は長時間の低体温下では臓器機能を保持できず死に至る一方で、一部の哺乳類は10度以下の低体温にも耐え長期間の冬眠を行うことができる冬眠動物である。この冬眠を可能とする「冬眠能」には、巣穴の中で飢餓・不動状態で過ごすにも関わらず骨格筋が萎縮しない筋萎縮耐性機構(寝たきり耐性)という興味深い性質がある。こうした冬眠能は通年発揮されるのではなく、季節特異性を示す。すなわち、冬眠動物も非冬眠期(夏)は「冬眠不能」状態にあり、短日寒冷刺激が入る前冬眠期(秋)から冬眠期(冬)にかけて「冬眠可能状態」が誘導され、後冬眠期(春)の訪れとともに冬眠能は解消されることが知られる。この「冬眠能の可塑的リモデリング」という事実は、通常冬眠不能状態にあるヒトなどの非冬眠動物に対しても、冬眠能を構成する性質を部分的にでも誘導し活用できる可能性を示唆する。従って、「冬眠能はいかにして達成されまた可塑的にリモデリングされるのか?」という問いは、基礎生物学的興味を満たすのみならず、医学・薬学・運動科学・宇宙科学をはじめ幅広い分野への応用が期待される課題である。本研究では、実験室での冬眠研究に数多くの利点を有するシリアンハムスターを冬眠モデル哺乳類として活用し、冬眠期の骨格筋の性質を発現させ維持する機構は何か、という問いに挑む。まず、小型動物用MRIを用いて同一ハム個体で冬眠前から冬眠期に渡る骨格筋量を経時的に観察し検証したところ、骨格筋の量は実は前冬眠期すなわち冬眠開始前に減少するが、冬眠期にはその量は維持され、さらに自律的な冬眠終了とともに骨格筋量が冬眠前のレベルに回復する、可塑性を示すことが判明し、その遺伝子・組織学的変化の小菜を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、小型動物用MRIを用いて同一ハム個体で冬眠前から冬眠期に渡る骨格筋量を経時的に観察し検証したところ、骨格筋の量は実は前冬眠期すなわち冬眠開始前に減少するが、冬眠期にはその量は維持され、さらに自律的な冬眠終了とともに骨格筋量が冬眠前のレベルに回復する、可塑性を示すことが判明している。そこでこの過程における組織変化と遺伝子発現変化を解析した。その結果、冬眠前に速筋が減少し冬眠期は遅筋が維持されることが判明している。さらにこの詳細を組織学的に明らかにすることにも成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は以下の方針にしたがって研究を進める。 1. 冬眠期に向けた骨格筋可塑的リモデリング因子の探索と同定 2. 筋幹細胞および間葉系細胞への遺伝子導入によるin vitro評価 3. ヒト・マウスなどの非冬眠動物への冬眠動物が有する筋萎縮耐性の賦与 4. 骨格筋可塑的リモデリングの冬眠での役割の解析 これらの解析から、冬眠時の不動下にも関わらず、骨格筋が維持される機構の分子機構を明らかにする。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大により、新しい動物実験を必要とする3, 4の開始が大幅におくれる可能性が高い。その場合は、1, 2を中心に研究を進める。
|