研究課題/領域番号 |
19H04057
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
辻田 忠志 佐賀大学, 農学部, 講師 (20622046)
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研究分担者 |
水沼 正樹 広島大学, 統合生命科学研究科(先), 教授 (10343295)
山本 雄広 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (50383774)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 老化 / Nrf1 / ERストレス |
研究実績の概要 |
タンパク質、核酸、脂質に挙げられる生体高分子が損傷を受け変性したものが、分解不良などによって蓄積すると、細胞機能が障害され、組織の老化が進行するとされている。これらの物質の変性には活性酸素種や低分子アルデヒドの関与が強く示唆されている。これまで、私たちは転写因子Nrf1が抗酸化タンパク質や不良タンパク質の除去に関連する酵素などの発現を統一的に制御することを見出し、研究を推進してきた。私たちはNrf1を安定化すると、変性生体高分子の量が減少し、一方でNrf1欠失すると変性高分子が増加することを見出している。本年度は、野生型マウス、老化モデルマウス(Klotho-/-)および高齢マウス(3Y)で、不良タンパク質の認識機構、すなわちERストレスセンサー(PERK、ATF6およびIRE1)の発現を確認し、老化モデルマウスおよび高齢マウスにおいて、PERKおよびIRE1タンパク質の発現が減少し、変性タンパク質の認識機能が低下していることが示唆された。これらERストレスセンサーの発現調節にはNrf1およびNrf2が協調して関与していることを私たちは見出していため、それぞれの発現量を確認したところ、Nrf1タンパク質のみが著明に減少することを見出した。一方でNrf1 mRNAの発現は変化が観察されなかったことから、現在、Nrf1タンパク質の分解に関係するVCP、Ngly1、beta-TrCPなどの経路を中心に老化との関連を解析中である。 加えて、培養細胞の継代を進めると、アミノ酸を多く取り込んだとしても、利用ができなくなる現象が見出されている。その原因として、細胞内アミノ酸量を認識するセンサーGCN1の機能が注目されている。そこで老化におけるアミノ酸吸収に着目して関連タンパク質の発現解析を進めている。現在、老化モデルにおいてGCN1―GCN2などの特定の経路に変化があることを見出しており、遺伝子改変マウスにおいて、確認の実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに老化モデルマウスとNrf1過剰発現マウスまたはNrf1ヘテロマウスとの掛け合わせが完了した。まだ、個体数は少ないが、ヘテロマウスでは老化の加速、過剰発現では老化が抑制される傾向が観察されている。本マウスにおける、ERストレスセンサー類の発現も若干ながら回復傾向にあり、遺伝学的にもこれまでの結果を支持している。 老化状態において変動する体内低分子代謝物とNrf1を欠失した際に変動する代謝物の共通項の解析を進め、これまでにポリアミン代謝経路に異常を持つという共通性を見出している。老化によって、遊離アクロレインが多く発生することはいくつか報告があるが、我々の解析から、この原因はSmoxの発現上昇によることを見出している。SmoxはNrf1によって発現が抑制されることも明らかとなっているため、抑制化合物を取得できるようにスクリーニング系の構築を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ感染症の影響で、県境をまたぐ移動ができないため、遺伝子改変線虫や酵母の樹立が遅れている。本年度は、Nrf1 (SKN-1A)やSmoxの過剰発現ウイルスなどを樹立することができたので、これらを遺伝子改変動物に導入して表現系を観察し、マウスで得られた結果を下等生物で裏づけを取りながら、リアルタイムストレスモニタリングを実施する。 また、老化モデルおよびNrf1欠失マウスにおけるゲノムワイドなメチローム解析を実施し、ヒステリックな応答の全容解明に迫り、論文へまとめる。
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