研究課題/領域番号 |
19H04058
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
亀井 康富 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (70300829)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 筋萎縮 / 肥満 / サルコペニア / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
サルコペニア(加齢や不活動・低栄養・疾患などによる筋萎縮・筋機能低下)とそれに伴う肥満(サルコペニア肥満)は超高齢社会の我が国で直面している問題である。本研究では、独自に作製した遺伝子改変マウス等のオミクス解析、転写調節因子の活性を指標とした食品成分のスクリーニング、筋初代培養など細胞を用いたin vitroの分子生物学的解析を組み合わせ、サルコペニアとサルコペニア肥満の発症と予防・改善の分子基盤解明を目指している。本研究課題の遂行により、超高齢社会の健康寿命延伸の手がかりとなり、また骨格筋を主体とした生理・病態生理現象の解明により健康科学分野進展への波及効果が期待される。具体的には、①.独自に作製した遺伝子改変マウス等のオミクス解析、②.転写調節因子の活性を指標とした食品成分のスクリーニング、③.筋初代培養など細胞を用いたin vitroの分子生物学的解析、の①~③を組み合わせ、サルコペニアとサルコペニア肥満の発症と予防・改善の分子基盤解明に取り組んでいる。本研究ではFOXO1、PGC1β、Dnmt3aという遺伝子発現調節因子に着目して実験を進めている。(FOXO1:筋萎縮を引き起こす。PGC1β:エネルギー消費を活性化し肥満を改善する。Dnmt3a:DNAメチル化酵素、骨格筋萎縮で発現減少する。)本年度の研究実績として、FOXO1によるPGC1β遺伝子の発現調節機構を解析した。またPGC1βのホモログであるPGC1α遺伝子改変マウスの網羅的代謝産物・遺伝子発現解析を実施した。またFOXOおよびDnmt3aに関する新たな遺伝子改変モデルの作製と表現型の解析を進めた。さらに関連の食品成分(アミノ酸、イソフラボン 、ビタミンD)に関する知見を整理し総説として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、PGC-1βはエネルギー消費に重要でありイソフラボンによって活性化されることを示した。しかし、PGC-1βの発現調節メカニズムについては明らかにされていなかった。今年度の解析において、骨格筋でFOXO1がPGC-1βの発現を抑制することが示唆された。筋萎縮時に発現増加したFOXO1が、エネルギー消費促進に働くPGC-1βの発現を抑制することで、筋萎縮時のエネルギーの浪費を抑制している可能性があると考えられる。また骨格筋特異的にPGC1α(PGC1βのホモログ)が過剰発現しているマウスのCE-TOFMSによる代謝産物の網羅的な解析を行い、骨格筋でドーパミン異化代謝やBCAA異化代謝が亢進し、血液中のホモバニリン酸の増加や分岐鎖α-ケト酸が減少することを見出した。PGC1αは運動により発現増加するため、血液中のホモバニリン酸は運動時のマーカーとなる可能性がある。またFOXO1の転写活性を抑制し,筋萎縮抑制効果が期待される食品/天然化合物の探索を、スクリーニング数を追加して実施した。その結果、ビタミンDなど複数の化合物がFOXO1の転写活性を抑制することが判明した。さらにFOXOとDnmt3aに関して、新たな遺伝子改変マウスの作製を進めた。すなわち、骨格筋特異的FOXO1, FOXO3a, FOXO4欠損マウスおよび骨格筋特異的Dnmt3a過剰発現マウスを作製し、表現型の解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではFOXO、PGC1β、Dnmt3aに着目して実験を進める。(FOXO:筋萎縮を引き起こす。PGC1β:エネルギー消費を活性化し肥満を改善する。Dnmt3a:DNAメチル化酵素、骨格筋萎縮で発現減少する。)FOXO1の転写活性抑制を指標とした食品成分・機能性化合物のスクリーニングによりビタミンDが得られているので、解析を進めるとともに、新たに得られている食品成分・機能性成分に関して解析していく。またFOXO1のホモログFOXO3aに関しても検討を行う。サルコペニアを有する高齢者では25(OH)ビタミンDの血中レベルが減少することが知られている。若齢マウスおよび老齢マウスを、ビタミンDを減少させたエサで育て、筋萎縮に関連するパラメーターを解析する。さらに、FOXO遺伝子欠損マウス(FOXO1, FOXO3a, FOXO4トリプルノックアウト)の筋萎縮表現型を解析するとともに標的遺伝子を同定する。これにより筋萎縮におけるFOXOの役割が明確になることが期待される。一方、PGC1βを活性化することが判明した食品成分(ダイゼイン、ゲニステイン)がサルコペニア肥満を改善するか、遺伝子改変マウスを用いて骨格筋量・機能・脂肪量を調べる。他方、加齢などで萎縮した骨格筋ではDnmt3aの発現量が減少する。Dnmt3a 遺伝子改変マウスがサルコペニア肥満のモデルとなる可能性があり、その責任となるメカニズムを解析する。DNAメチル化酵素遺伝子改変マウスの骨格筋の遺伝子発現と表現型を詳細に解析し、骨格筋の性質変化(赤筋・白筋に着目)が生じるか否かを検討する。
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