研究実績の概要 |
全ての糖尿病患者ではインスリン分泌細胞である膵β細胞の容量が低下、あるいは廃絶しているため、糖尿病の根治を実現するためには失われたβ細胞を補充する必要がある。最近、絶食に近い食事を間欠的に繰り返す”擬絶食療法”がβ細胞新生を誘導することが報告され(Chen C et al. Cell 168: 775-788, 2017)、糖尿病の新たな治療戦略として注目されている。しかし、その背景にある分子機構は未解明である。そこで本研究ではβ細胞新生を組織学的に可視化するレポーターマウスを用いて擬絶食療法で誘導されるβ細胞新生の背景にある分子機構を解明するとともに、より効率的なβ細胞新生誘導法の開発を目指す。 本プロジェクトを開始したときに使用していたIns1-eGFP;Timer(DsRed-E5)マウスは胎生期の新生β細胞を標識するのに有用なマウスであったが[Sasaki S et al. Diabetologia 2022]、成体マウスではDsRed-E5陰性の細胞が散見され、gene silencingの影響と考えられた。そこでIns1-CreER;ROSA26-mTmGマウス(β細胞特異的にCre酵素を発現し、Cre酵素存在下でmTomatoからmGFPへと 蛍光タンパク質の発現をスイッチする)を導入し、アロキサンを用いて高血糖を誘導した後、擬絶食療法(50%カロリー制限食を1日間、90%カロリー制限食を4日間、その後通常食を7日間給餌する サイクルを5回繰り返す)を行ったところ、一部の膵島内に赤色蛍光陽性かつ緑色蛍光陽性の新生β細胞を観察することに成功した。通常食マウスではβ細胞新生を示唆する細胞群は観察されなかった。胎生期膵前駆細胞で高発現することが知られている転写因子Neurog3に対する抗体を用いて免疫組織染色を行ったが、Neurog3陽性細胞は検出されなかった。
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