研究課題/領域番号 |
19H04063
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
上住 聡芳 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (60434594)
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研究分担者 |
上住 円 (池本円) 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (70435866)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 老化 / 筋再生 |
研究実績の概要 |
老化に伴う組織再生能力の低下は、個体の機能低下・衰弱を導き問題になる。骨格筋は本来、優れた再生能力を備えているが、老化によりやはりその再生能は低下する。我々はこれまでに、再生筋組織中のIGF-IIレベルの低下が、老化に伴う筋再生能低下を導く原因の一つであることを報告している。IGF-IIは筋組織中の間葉系前駆細胞から産生され、筋幹細胞の増殖促進や間葉系前駆細胞自身の脂肪化を抑制することで筋再生を促進する。一方、間葉系前駆細胞による筋の脂肪化抑制法開発の過程で、レチノイン酸(RA)に強力な脂肪化抑制効果があることを明らかにした。重要なことに最近、間葉系前駆細胞におけるIGF-IIの発現にRAシグナルが必要であることを見出した。これらから、間葉系前駆細胞におけるRA-IGF-II軸が筋再生にとって極めて重要と考えられる。そこで、RA-IGF-II経路の分子機構や生理的機能および加齢変化を精査し、RA-IGF-II経路を活性化することで筋再生システムの若返りを図る。 2019年度は、間葉系前駆細胞におけるRAシグナルの分子メカニズムの解析を計画しており、予定通り研究に取り組んだ。詳細は以下の「現在までの進捗状況」に記載するが、1)間葉系前駆細胞におけるRAシグナル伝達のキーとなるRA受容体の同定、2)間葉系前駆細胞におけるRAシグナル標的遺伝子の探索、3)RAシグナルレポーターマウスを用いた筋再生過程におけるRAシグナル応答細胞の同定、これらが本年度の主な成果である。特に、3)のRAシグナル応答細胞の同定は当初の研究計画にはなかったが、フランスのパスツール研究所との共同研究の下で、計画以上に発展した内容で、筋再生過程におけるRAシグナルの生理的意義、および、分子メカニズムを解明する上で重要な成果と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)間葉系前駆細胞におけるRAシグナル伝達のキーとなるRA受容体の同定 RAは核内受容体であるRA受容体(RAR)に結合し標的遺伝子の発現を活性化することで機能するが、RARには3つのタイプ(alpha、beta、gamma)が存在する。間葉系前駆細胞におけるRAシグナル経路は、3つのうちどのタイプの受容体が担っているのかを、各受容体の遺伝子発現解析や選択的阻害剤を用いた阻害実験によって調べた。その結果、間葉系前駆細胞におけるRAシグナル伝達にはRARalpha、および、RARgammaが重要であることが示唆された。 2)間葉系前駆細胞におけるRAシグナル標的遺伝子の探索 間葉系前駆細胞におけるRAシグナルの生理的意義を明らかにする目的で、間葉系前駆細胞におけるRAシグナル標的遺伝子の探索を行なった。RAシグナルを薬剤的に阻害したマウスとコントロールマウスの筋再生過程から間葉系前駆細胞をセルソーティングにより単離し、RNAseqを行なった。RAシグナル阻害マウス由来の間葉系前駆細胞で発現低下する遺伝子の中に、RAシグナル標的遺伝子や下流シグナルパスウェイが含まれると予想され、現在その絞り込みを行なっている。 3)RAシグナルレポーターマウスを用いた筋再生過程におけるRAシグナル応答細胞の同定 間葉系前駆細胞で産生されたRAは、間葉系前駆細胞だけでなく近傍に位置し筋再生に重要となる他の細胞にパラクライン様に作用することも考えられる。フランスのパスツール研究所との共同研究で、RAシグナルレポーターマウスを用いてRAシグナル応答細胞の解析を行なった。その結果、間葉系前駆細胞における細胞自律的RAシグナルと、他の細胞へのパラクライン様作用による細胞非自律的RAシグナルの実体を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、当初計画にはなかったRAシグナル応答細胞の同定という、想定以上の成果が得られた。これは、次年度以降で計画しているRAシグナル阻害遺伝子改変マウスを用いた、in vivoにおけるRAシグナルの生理的機能の解明に役立つ、極めて重要な情報をもたらす結果である。よって、本年度のこの成果を受けて、計画しているRAシグナル阻害遺伝子改変マウスを用いた研究に取り組む。すでに、Cre依存的にdominant negative RARが発現しRAシグナルが阻害されるR26<RAR403>マウスは導入済みで、繁殖を開始している。本年度明らかにしたRAシグナル応答細胞において、細胞種特異的にRAシグナルを阻害するために、RAシグナル応答細胞特異的なCre driverマウスを用いる。R26<RAR403>マウスとRAシグナル応答細胞特異的Cre driverマウスを交配し、解析対象とするRAシグナル応答細胞でのみRAシグナルを阻害する。それによって、筋再生が受ける影響を精査するとともに、RAシグナル標的遺伝子の同定を行い、それらを総合的に解析していくことで、RAシグナルの生理的機能の解明を目指す。
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