本年度は、漸進的双方向化として、部分翻訳に基づく部分双方向化と、非対称双方向変換の合成が行われている状況における漸進的な双方向変換の導入について主に検討した。 前者については、査読中の国際雑誌論文の更なるmajor revison requestを受けて、弱い双方向性(well-behavedness)と強い双方向性の合成が自明でないことにより追加で必要となる、両者の接続点における性質を明確化した。また、提案手法の健全性のために必要な一般的な性質と、個別の翻訳元、翻訳先の言語、技術空間の組み合わせが与えられたときの具体化の関係について精緻化した。 後者に関する本研究の根本的な問いについては、線形に合成されている様々な単方向変換において、それを非対称の双方向変換に漸次置き換える場合について考究した。二つの非対称型の双方向変換の合成は、順方向変換の向きの組み合わせにより、逐次、余スパン、スパン型の3通りがある。それぞれについて、その両方が単方向変換の場合、片方が双方向になった場合、両方が双方向になった場合、それぞれどのような双方向変換を構成するか、どの位置で更新が受け入れられるか、どの方向に変換が伝播できるかについて推論規則を定めた。双方向変換の連環のなかでの単方向変換は更新伝播の弁のように位置付けられ、連環における位置によっては、1箇所存在するだけで更新可能位置の全体数に大きな影響を与える。このような単方向変換の双方向変換への置き換えは、本研究の目的であった、双方向性を段階的に強めてゆく具体的手法と位置付けることができ、双方向性の度合いの一つとして、更新可能位置の割合を指標とすることができる。 今後、双方向化率や、上述の更新可能ノードの割合、注目する一つの単方向変換を双方向化したときに更新可となるノード数、つまり双方向化率の微分のようなものなどの定量化にも取り組んでいきたい。
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